INTEXT スタンディングパイン(名古屋)

INTEXT インテクスト

 インテクストは、グラフィックデザイナーの見増勇介さん、外山央さん、プログラマーの真下武久さんによるアート・ユニットである。

 メンバーのそれぞれがデザイナーやプログラマーとして活動する中で生まれた関心や課題などをグループで捉えなおし、国内外でアート作品として展開してきた。

記号区域 Imaginary Section

STANDING PINE(名古屋) 2021年9月11日〜10日9日

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 「記号区域:Imaginary Section」と題された今回の個展では、都市空間におけるサイン(記号)の矛盾、不合理をインスタレーションで提示している。

 具体的にいうと、それは都市空間における駐車スペースである。

 ギャラリーの床に、白線の区域指定によって、駐車空間をイメージした一角が模倣される。近くには、満空表示灯が緑色の光で「空」を示している。

 余談になるかもしれないが、筆者は、2000年、現在地に移転前の国立国際美術館であった「空間体験 《国立国際美術館》への6人のオマージュ」で、美術家の平松伸之さん(1965年、愛知県生まれ)が見せた展示が思い出された。

 平松さんは、このとき、展示室の床に白線を引き、 本物の乗用車を並べた。美術館の展示室に駐車場をもってきたのである。

 たとえ、美術館といえども(美術館だからこそ、と言うべきか‥‥)、空間そのものは中立的で、フレームが変われば、乗用車さえ置けてしまう。空間と制度の関係を鮮やかに示したのである。

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 ギャラリー空間に「コインパーキング」という区域をもちこんだ今回のインテクストの展示は、平松さんの試みと一脈通じる気もするのである。

 もっとも、今回の展示が問題提起しているのは、ギャラリー空間というより、都市という公共空間である。

 ほとんどの人が帰宅した深夜の大都市中心部を想像してみてほしい。そこでは、コインパーキングはほとんどガラガラで、満空表示は燦々と「空」を表示している。

 筆者も、深夜に都市中心部を歩いた記憶がよみがえったが、車が一台もない駐車場における「空」は、日中、車が多く出入りする駐車場に表示された「空」を超えて、ズレが生じている。

 つまり、夜間の大都市中心部の駐車場は、何もない空間であり、それは「空虚」そのものなのである。

 都市中心部に車でアクセスする人のための駐車場は必要な空間かもしれないが、過密化や地価高騰が問われる中、建物とは異なる理屈で設けられただけに、完全なる空疎な区域に転じているのである。

 そこでは、いみじくも「空」という文字=記号の意味するものが、都市の矛盾を背景に変質している。

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 白枠で囲われたスペースの壁には、液晶表示器が設置され、ミシェル・フーコーの著作から引用された言葉が流れている。

 世界には、すべてが許されている文化などない。はるか昔から、人間は自由とともに始まるものではなく、越えられない境界とともに生きている。

 おおよそ、そんな趣旨の文章である。

 つまり、人間は生まれたときから、制限された区域という境界の張り巡らされた中で生きている。

 別の液晶表示器には、「地域」「はざま」「一角」など、「区域」に近い、空間を区切る意味の言葉が流れてくる。

 ギャラリーには、不意に「車止め」が設置されている。これもまた、「ここから先は進むな」という区切りである。

 今回の展示は、都市空間とサインの関係、都市における空間の矛盾とともに、その空間を区切る見えない(あるいは見える)境界、制限、分断を暗示していることが分かる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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