時間の溜まり場[1992-2022] 井土英世志展 masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)で2022年10月22日-11月6日

masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市) 2022年10月22日~11月6日

井土英世志

 井土英世志さんは1950年、現在の愛知県西尾市出身。岡崎市を拠点に制作している。

 写真はほとんど独学。20代で風景などを撮り始め、1992年に岡崎市内に残った木造校舎を撮影した写真集「がっこう」を自費出版した。

 1993年から、岡崎市のタウン誌「リバーシブル」で巻頭の連載「目ぐすり写真」を11年間担当している。

井土英世志

 数々の職業をしながら写真を撮り、40代半ばとなった1995年から、プロとして活動している。コンセプトのベースには「日常の何気ない時間の溜まり場」がある。

 「時間の溜まり場」とは、面白い言い方である。溜まり場の意味は、一般には、仲間がいつも集まる場所である。それを「時間」に使っている。いろいろな時間が溜まった場所。時間が滞留している空間ともいえるだろう。

井土英世志

 今では誰も目に留めなくなった場所、使われていない場所、あるいは、低迷している場所、活気がない場所。時間が堆積した空間と言い換えることもできる。

時間の溜まり場[1992-2022]

 古い木造校舎や、廃れた工場の電気の制御板など、作品は、ノスタルジックというより、フェティッシュである。

 「ノスタルジック」が、過去の時間、空間を離れて懐かしむ心境だとすると、「フェティッシュ」は、対象を偏愛することである。井土さんの作品には、単に感傷的になるのではなく、時間が積み重なった何げないものに対する思いがあふれている。

 実際に、井土さんの作品は、重層的な時間や作者の強い思いによって神秘的、幻想的な雰囲気をまとっている。一部を除いて、サイズの小さな作品が多く、断片的だが密度があるのだ。

 もう1つの特徴は、作品が非常に多彩であることだ。

 回顧展的に30年間のさまざまなシリーズをそろえている。そして、その多くが質感へのこだわりをもっている。

井土英世志

 被写体そのもののテクスチャーに意識を向けていることもあって、表面や壁へのまなざしが強く感じられる。

 壁を撮影し、そのプリントに上から絵具で描き足したシリーズもある。実に巧妙で、壁と絵具が一体化して、どこが描いた部分なのか分からない。

 土壁と萩を撮影した風景写真では、イメージをぼかしつつ、黄色で蝶を描いている。この作品では、壁面のテクスチャー、絵具の物質感が響き合って、絵画的である。

 あるいは、印画紙の代わりに、イメージをさまざまな物質に焼き付けた連作。ここでも、井土さんの触覚性への強い関心が見て取れる。

 ほかにも、写真の雪景の白を飛ばして水墨画の風情を出した作品、写真を掛け軸にした展示手法を含め、実験精神満載である。

 時間の溜まり場としての井土さんのイメージは、テクスチャーにこだわることによって、「絵画」が意識されている。実際に絵画作品が多く出品されていて、それもまた巧みである。

 とても器用な作家である。長年にわたって制作に取り組んできた真摯な歩みが確認できる展示である。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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