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後藤泰洋展—ドローイング&コラージュ—「89歳 表現に生きる」

ギャラリーA・C・S(名古屋) 2019年7月26〜28日

 89歳になる愛知県一宮市の美術家、後藤泰洋さんがA・C・Sで2015年以来、4回目となる個展を開いた。会期はいずれも3日間。

 後藤さんは以前、体調が良い時には毎回のようにA・C・Sの展覧会に足を運び、後日、ファクスで寄せた感想、批評の文章は画廊のリフレット「ラビスタ」に展覧会の寸評として掲載されていた。

 高齢となり、画廊を訪れることがなくなる中、A・C・Sの佐藤文子さんが声を掛けて開かれるようになったのが、この3日間だけの個展である。

 「病むと一日一作も みえないものが見えてくる。やぼなブルーのヘンシンである。たしかな新しさ、きょう そしてあしたである」。「ラビスタ」に、そう後藤さんは記す。

 今回は、2つの系統の作品が並んだ。一つは、B紙(模造紙)に水色の水性塗料で筆触の斑点を埋めていったオールオーバーなドローイング作品。塗料の濃淡や粗密が森、植物、あるいは木漏れ日を目に浮かばせる。

 優しい生気が満ち、清新な風が吹き抜けるようである。もう一つは、新聞紙や展覧会のポスターの表面をグリッド状に仕切って、その碁盤目の一部に白、赤や青、黄色で着色した別の矩形の紙を貼っていった作品。こうしたコラージュは、体力が衰えても、比較的小さな体の動きで制作できるようである。

 前回までの個展と比べると、表現の強度は控えめ。今の状況を受け入れ、それでも確実に一日一作を続けていると見受けられるさまが、見る者に元気を与えてくれる。

 今も、一宮市で絵画教室の生徒の合評会には顔を出しているとも聞く。達観した境地、無欲の日々。逆らわず、すべきことではなく、したいこと、できることをする。そこから生まれるものがある。

 去っていく時間もあるが、訪れる時間もある。生きることについて、自分を見つめている自分がいた。

ACSの後藤泰洋展
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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