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味岡伸太郎 宮ノ洞からのInspiration

ギャラリーサンセリテ(愛知県豊橋市) 2019年11月2〜24日

味岡さんの作品で最もよく知られているのは、各地で収集した土を絵の具のように使った平面だろう。「あいちトリエンナーレ2016」でも、そうした代表作が展示されていたように思う。
土の平面作品の延長で言えば、味岡さんは、泥水で色をつけた布地を壁代わりにした茶室のような小屋も作っていて、もう20年以上前の1990年代には、ギャラリーサンセリテでの個展で展示され、筆者も、土で染めた布でテント風に囲った空間に入れてもらった記憶がある。あるいは、別のシリーズとして、土を両手で包み込むといった抑制的な所作で形にした茶碗や、土を引き延ばすようにした陶板(皿)も制作していて、それぞれに味岡さんの制作への一貫した思想を見てとることができた。

味岡伸太郎

今回紹介するのは、枝を組み合わせたシンプルなオブジェである。これらは、自宅の庭で剪定されたケヤキの枝をギャラリーに運び込み、この夏に愛知県豊田市であったアートプロジェクトで、味岡さんが作品を設置した同市大坂町宮ノ洞の熊野神社の付近から持ち帰った石とともに構成したものである。主役はあくまで枝で、石は重しとバランスを取る素材だ。大小15点ほどの作品は、2日間の約7時間で制作された。
制作現場では、ほとんど考えず、条件反射のように手の動きに任せ、やり直しもしない。即興的といえば、即興的だが、味岡さんなりのスコア(楽譜)のようなものがあって、それが見えてから一気に作り始める。スコアの基になるものは普段の思考の延長上にある。味岡さんは普段、メモのようなドローイングを繰り返しては、枝の構造から生まれ出る形、つまり枝と枝の組み合わせ方について思いを巡らしつつ、それを現場で壊して手の動きに任せる。つまり、形の最終結果は考えず、制作に入る前の日常の中で、繋ぎ方のイメージを膨らませ、現場では、構築的に作ろうとしないで、自然の枝との対話を続ける。言い換えると、自然そのものを生かす。結果として、作品は、枝が構成されたものにはなっているが、計画に従って構築したものではない。

味岡伸太郎

 オブジェは多様である。星型のようなもの、縦にジグザグのもの、円相、縦に伸び、上が細かい枝に分離しているもの、二つの枝が接するか、接しないかの微妙な距離で縦に連なるもの、多角形が二重になっているような形、二等辺三角形のような形、瓢箪のような形、梯子みたいに短い枝が上下にいくつも並ぶもの。時々、石が絶妙な場所に置かれている。

味岡伸太郎

 こうした作品に至ったのは、味岡さんが20代の頃、山口長男(1902〜83年)から薫陶を受けたことが大きい。味岡さんが、山口長男から投げかけられた言葉「目に見えない、現象を引き起こす風を描くこと」を引用すると、現象自体を描く、現象を作るのではなく、その奥にあるものを考えなければならない。それは、「作為」とどう付き合うかという問題でもあった。庭師が剪定した家の庭のケヤキでも、目に見えなくとも自然の秩序や法則を秘めている。作為をしない方が、素材が導いてくれる形、現象の奥にある風が生まれる。
 枝のオブジェも、土の平面作品も、土の器も、そうした考えに基づいて制作されている。味岡さんの作品は、一貫して、いかに作為を捨て、自然の摂理を受け入れるかという問いかけである。素材と一体になりながら、素材の声を聞き、それでも、なお純粋美術のきわを進む。それでいて、素材本来の特性と手の動きが交差する身体性を孕んだものとして、味岡さんの作品は、時として工芸的な色彩を帯びる。

味岡伸太郎

 味岡さんの作品には、意図的に形をつくることで、象徴性を表象しようということがない。抽象でありながら具象でもあって、味岡さんが自然の摂理と向き合ったことによって生まれた形としか言いようがない。とても美しく、円や水平線などの形を持っていても、それ自体に象徴的な意味がない。むしろ、味岡さんが土の平面作品において重要視した土のマチエールと同様、枝そのものをとても大事にしている。それは、土が現象の奥を伝えるのと同様、枝が見えない自然の豊かさを教えるからである。

味岡伸太郎

作為性を排することで、土が本源的にもつ色や質感、導こうとする形、あるいは、枝が求める形や動きが現れてくる。味岡さんの作品では、こうした自然素材の魅力が強調されるのだが、より重要なのは、自然と身体感覚との対話、交差である。自然素材をプランに従って構築したものではない。精神によって物を支配し、造形するのでも、意思によって形を練り上げるのでもなく、できる限り作為によらないで、素材の声に耳を傾け、身体的な実感で自然の美しさを導き、その奥にある法則を開示するのだ。

味岡伸太郎
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