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若杉聖子展

  • 2019年10月31日
  • 2019年10月31日
  • 美術

多治見市陶磁器意匠研究所(岐阜県) 2019年9月7日〜11月10日

 長く鑑賞を中断していた陶芸も少しずつ見るようにしたいと思い、岐阜県多治見市に足を運んだ。できる範囲で、記述したい。意匠研に、こうした展示スペースがあるとは知らなかった。
 若杉さんは、1977年富山市生まれ。近畿大文芸学部芸術学科を卒業後、2003年に意匠研を修了している。キャリアを見ると、国際陶磁器展美濃や、筆者も2001年に訪れた韓国・利川の京畿道世界陶磁ビエンナーレなど、既に数々のキャリアを持っている。展示は小規模ながら、よくまとまっている。同じスケジュールで、意匠研のセラミックスラボ前期制作展も同時開催され、ともに見応えがある。

 若杉さんは、鋳込み成形によって、植物的な形態や、植物をモチーフにした浮き彫り模様風の器やオブジェを制作している。意匠研所長の中島晴美さんによると、美濃焼には、志野、織部などの桃山陶とともに、生活陶磁器の大量生産の歴史があり、鋳込みの技術は、輸出陶磁器のために利用されてきた当たり前の技術である。作家性を押し出したい現代陶芸の世界では、こうした量産のための技術は敬遠されがちだが、若杉さんは、あえて、そこに引き寄せられた。
 基本的な量産の技法によって、その人でしかありえない表現を、しかも現代的な感覚で打ち出すのは、とても貴重である。それは、陶芸作家としての立ち位置と、産業陶磁器を背景とした陶磁器デザインとしての役割という両方向の可能性を感じさせる。それゆえなのか、器物であるとか、オブジェであるとか、実用性があるとか、ないとか、そういう区別を意識させない、そういう閉じた印象を感じさせない作品になっている。

 若杉さんの作品は、磁器の泥漿を石膏型に流し込んで型取りして制作する。白い磁器のシンプルな形態はここ十数年の一つのトレンドである。釉薬を使わず、白一色で制作することで、色による装飾よりも、土による形、造形への根源的な問題意識も見える。装飾を排した形はとても美しく、繊細で優美でありながら、強さとメリハリがある。基本的には、花の形態のバリエーションのように思え、花弁やしずくのような形が反復するとともに、自然そのもののように、しなやかに面が連なる。
 シンプルと言いながら、表面の浮き彫りのような膨らみは内なる胎動をはらむように生き生きと造形され、あるいは透かしなども、とても丁寧でデザインが行き届いている。コケティッシュな曲線、曲面が白一色ゆえに強調される。磨かれた表面の、きめ細かく滑らかな質感、半光沢の優しい膨らみは、一方で、光をかすかに反射させながら、他方で、ほのかな陰影を落とす。

 そして全体として、静謐な佇まいが大変魅力的である。それは、楚々として清らかで温かみがあり、ニュートラルでありながら、自然の摂理のような精妙な形と磁土の質感そのものを現前させる。会場芸術のようなダイナミックな身振りもなければ、床の間芸術のような意味が充満した空間演出もなく、自然を模倣したシンプルながら豊かな形態が、日常と芸術、実用とオブジェ、東洋と西洋を行き来し、それらを包摂する作品である。

若杉聖子
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