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富永敏博個展「トンネルを抜けたら」gareco NAGOYA(名古屋)で2023年8月4-22日

  • 2023年8月12日
  • 2023年8月12日
  • 美術

gareco NAGOYA(名古屋) 2023年8月4~22日

富永敏博

 富永敏博さんは1978年、愛知県清須市生まれ。2002年、愛知県立芸術大学油画専攻卒業、2004年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科修了。

 名古屋のGALLERY Valeurなどで個展を重ね、garecoでは、2021年に続く個展である。 2020年に清須市はるひ美術館で個展「自分の世界、あなたの世界」を開いている。

 富永さんは2009年、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009」に参加。その後、2011年に名古屋のGALLERY GOHONでの個展の頃から現在の作風に移行してきた。

富永敏博

 抒情性をたたえた風景は、空想の世界ではなく、庄内川の堤防から名古屋方面を見た身近な景色や、瀬戸内海など、実在する風景の残像が基になっている。

 それらを合成したり、一部を取り出したりしながら、作品を構成している。シンプルな記号化されたビルや樹木、海と島などの風景が、明るく穏やかな色彩でフラットに描かれ、大きな余白の中で、気持ちよい絵画空間をつくっている。

 絵画を高さを変えて、壁に点在するように展示し、ミニチュアの車の作品を壁の手前に配するなどし、展示空間を1つの世界のように見せるインスタレーションでもある。見る者を遊び心たっぷりに楽しませる展示である。 

富永敏博

「トンネルを抜けたら」

 樹木やビル、島などの形は極度に削ぎ落とされ、同じパターンのバリエーションとして記号化されている。樹木は、広葉樹でなく、針葉樹のイメージである。ビルは、ニョキニョキと縦に細長く引き伸ばされている。

 それぞれのパーツは立体感がなく、いわば、イラスト的。それぞれに長さや幅、色合い、絵具の塗り方によって、特徴を出しながら、等価に扱っている。

 また、ビルは傾いているものもあって、島はもこもこと膨らんでいるなど、擬人化されたように愛嬌があり、ユーモアも感じさせる世界である。

富永敏博

 油絵具を使っているが、色が柔らかいこともあって、とても優しい雰囲気である。鉛筆やコラージュも加えて、画面に繊細な変化を付けている。

 簡略化やデザイン化、余白の取り方、ビルや樹木の相互関係などは、琳派や、先行する現代絵画やインスターレーションの間合いからも影響を受けている。

 風景を横から見ているのが大きな特徴である。真横のほか、やや下から、あるいは、やや上から見たものもあるが、いずれにしても、水平線や地平線に対して正対して、それぞれのモチーフに極端な強弱を付けず、平等に描いている。

 透視図法は使っておらず、全体は上下遠近法で、上に描いてあるものが遠方に、手前にあるものが近くにある風景である。

 多くの作品で、水平線、地平線を意識させられる線が横に引かれ、草や島なども底辺が水平方向に引かれている。これらの横線と、ビルや樹木の縦線が意識され、縦線、横線の位置関係と、長さの違いがリズムを生んでいる。

 そして、なんと言っても、富永さんの作品の特徴は、余白の中の、それらの位置関係の妙であろう。

富永敏博

 意匠化された形象と、余白の中の配置、すがすがしい色彩が相まって、富永さんの世界が出来ている。

 実在する身近な風景を基に描いていること、それに対して、優しいまなざしで向き合っていることを含め、世界をそのまま受け止めようという実直な姿勢を感じる。

 苦悩や悲しみ、思うようにいかない焦燥、有象無象に満ちたこの世界を、肯定的に描いた癒やしの風景ともいえる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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