「とける形、ふくらむ瞬間 横山翔平 小林千紗」瀬戸市新世紀工芸館 9月19日まで

愛知県瀬戸市新世紀工芸館 2021年6月26日~ 2021年9月19日

とける形、ふくらむ瞬間 横山翔平 小林千紗

横山翔平

 ガラスを素材に立体作品をつくる横山翔平さん、 小林千紗さんの2人展である。ともに、1980年代生まれの若手。

 それぞれに素材の特質を引きだした工芸らしいオブジェである。作家の身体の動きを想起させるように造形されている。

小林千紗

 横山さんは、大きな空洞を生命力で満たしたような立体を造形し、一方の小林さんは、軽やかで、同時に緊張感も持った動感を表出させている。

 ギャラリーヴォイス(岐阜県多治見市)で2020年6月27日〜 8月9日 に開かれた「ガラスの変貌Ⅳ」展に、2人とも出品している。

横山翔平

横山翔平

 横山翔平さんは1985年、岡山県生まれ。大阪芸術大学工芸学科ガラス工芸コース卒業。金沢卯辰山工芸工房修了。今は、多摩美術大学工芸学科ガラスプログラムの助手である。

 横山さんの作品は、同じ作家とは思えない2つの系統に大きく別れる。

 1つは、宙吹きによる透明なガラスの球体を基本としたシンプルといえば、シンプルな作品である。

横山翔平

 もともと2人組などチームワークが求められるところがある吹きガラスだが、横山さんの作品のスケール感は、それがよりいっそう感じられる大きさである。

 床に置いた球体の作品は、大きな吹きガラスをチームで接合させたようなシンプルな作品で、装飾性はない。透過性と大きな内部空間が特徴である。

 また、縦に引き伸ばされたスポイトのような形態3個が寄り添う作品は天井まで届く巨大サイズ。 それぞれ管が上下に2つ付く。

横山翔平

 いずれも、膜のような透明ガラスの境界で外界と隔てられつつ、一部は内部にも膜を形成。細胞や体の器官のように見え、呼気によって膨らんだ内部空間が生気をはらんでいる。

 もう1つのパターンは、色付きガラスをねり飴の要領で引き伸ばして絡ませたような形態である。

 柔らかな曲線と流動感をもちながら、それらが凝縮して台座に屹立するさまは強靭で、彫刻的でもある。

横山翔平

 ガラスは、結晶構造を持たないアモルファス (Amorphous) な物質で、熱が加わることで重力や遠心力の影響を受ける流動性、粘性のある素材となる。

 熱したガラス素材が固体化するまでのわずかな時間、横山さんは、重力を感じながら、できるだけヴィヴィッドに身体の動きと呼吸を形態に反映させようとしている感じがする。

 制作手法をシンプルにしているのも、そのためだろう。それゆえ、横山さんの作品は、生命的エネルギー、身体性の躍動が内包され、生命のメタファーのように感じられる。

小林千紗

小林千紗

 小林千紗さんは1988年、東京都生まれ。東京国際ガラス学院、富山ガラス造形研究所造形科を卒業。同研究科を修了していいる。

 ギャラリーヴォイスでは、小型の作品が展示されたが、今回は、大型の作品もあって、とても興味深い。

 吹きガラスによる作品だが、 呼気と重力と手の動きによる微妙なバランスで、 ぎりぎりまで薄く膨らませつつ引き伸ばし、その臨界点で出来た形態のパーツを組み合わせている。

小林千紗

 全体は植物、あるいは生き物のようで、果実のように膨らんだ部分と、湾曲したり直線的に伸びたりした細い茎のような部分との関係が極限的な均衡で1つのまとまりをもつ。

 崩れかねない手前のぎりぎりのところで存立している姿は、強さと弱さ、生と死、動と静という両義性の感覚を伴う。

 多分、そう感じさせるのは、小林さんの作品が、透明無彩のガラス表面に、 曲具帖紙という薄い和紙を貼って装飾しているせいもあるだろう。

小林千紗

 無機的なガラスが和紙によって温かみを帯び、有機的な存在感へと変容される。

 それによって、ガラスの大きな特徴である透過性が捨象され、逆に、ガラス素材がもっている別の潜在的な側面があらわになる。つまり、ガラスの透過性や、はかなさなどの印象が抑えられる半面、吹きガラスならではの形や重力の影響、存在感と動感が際立つのである。

 特に、今回数多く出品された「しろのくろのかたち」シリーズは、注目である。

小林千紗

 ガラス全面に和紙を貼って アクリルガッシュで黒く彩色しているため、透過性が完全に消え、つや消しの黒色に包まれた影のような形が空間の中で強調される。

 そこに、透明なガラスでは感じることができないであろう、生き物のような動きが生まれ、従来のガラス造形がまとったお決まりの表情を裏切る両義的なありようも浮かび上がる。

 あやうさと安定感、はかなさと存在感、優美さとグロテスク、しなやかさと緊張感、シンプルさと複雑さ‥‥。ガラス素材の特性を打ち消すことで別の潜在性を見せる、とてもユニークな作品である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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