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佐藤雅之 多治見市陶磁器意匠研究所(岐阜)2022年9月9日-10月16日

多治見市陶磁器意匠研究所(岐阜県) 2022年9月9日〜10月16日

佐藤雅之

 佐藤雅之さんは1968年、新潟県生まれ。1993年、武蔵野美術大学短期大学部工芸デザイン専攻陶磁コース卒業。1997年に多治見市陶磁器意匠研究所を修了した。現在、茨城県立笠間陶芸大学校の特命教授を務めている。

 国際陶磁器展美濃の陶芸部門・審査員特別賞、菊池ビエンナーレ優秀賞などを受賞。岐阜県現代陶芸美術館、牛田コレクションなどに作品が収蔵されている。

佐藤雅之

 「新進陶芸家による『東海現代陶芸の今』」(2008年、愛知県陶磁資料館)、「現代・陶芸現象」(2014年、茨城県陶芸美術館)など、美術館の企画展にも数多く参加している。

 代表作「水の骨」は、磁器土を泥状にした泥しょうで、水が流れるような揺らぎ、うつろいを形象化し、強さとともに繊細さ、あやうさを追求した作品である。

 今回、展示された作品のほとんどは、「殻の巣」のタイトルが付いたシリーズの新作である。磁器土を薄く延ばした殻のようなユニットが段差をつくりながら増殖した形態である。

佐藤雅之

2022年 多治見市陶磁器意匠研究所

 殻の単位は、細長い器形でありながら、均一でなく、サイズも形も異なっている。そうした不定形の器が連続しながら癒着して、極薄の殻の層構造ができ、それによって全体の形と動感が生まれている。

 興味深いのは、強さとともに繊細さ、あやうさが表象された「水の骨」のときと同様、作品の印象が両面的であることだ。薄い磁器土による殻は、堅さと壊れやすさをあわせ持っている。

 表面のマットな質感、丸みを帯びた形状から、柔らかい印象を受ける半面、それぞれの殻の上部は割れたような口縁部をもち、鋭角的でもある。

佐藤雅之

 佐藤さんのオブジェは、いくつかの殻の底部で台座に立っているが、それがふくよかなお尻のように安定しているものも、いくつもの細い“つま先”で美しく体を持ち上げているように見えるものもある。

 全体がうねるようにある方向に向いている中でも、1つ1つの殻がランダムな動きを見せていて、形態は実に複雑である。

 それゆえ、1つの作品をある方向から見たときと、別の方向から見たときでは、印象が全く異なり、別の作品ではないかと思えるほどスリリングである。

佐藤雅之

 白い地に着色してある下部の表情も多様である。

 静かなエネルギーが現れた印象のものから、マーブル模様のように優しい色彩の流れを感じさせるもの、軽やかで即興的な筆触を想起させるものまで、変化に富み、いずれも絵画的である。

 タイトルは「殻の巣」で共通しているが、それぞれに副題のような言葉が、「罪」「嫉妬」「爽」「地」「喧騒」「渚」「射光」などと添えてある。

 「殻」とはそもそも、中身を覆って、内部を守る外側の皮である。中身がなければ、それは「抜け殻」だが、佐藤さんは、そのはかない極薄の構造に形の本質を見ている。

佐藤雅之

 佐藤さんには、まさに「ぬけがら」(1998年)という作品がある。熱っぽく内的欲求を詰め込んだ表現性ではなく、むしろ、抑制を効かせた節度、その静謐な形態のあやうく、フラジャイルで、同時に強い存在感こそ、佐藤さんの作品の魅力である。

 つまり、自分の中にあるイメージに基づきながらも、自然な流れに任せ、あるいは、しなやかに土と戯れながら造形し、繊細な感覚で制作する。

 「殻の巣」は、そんな残響のような美しさをたたえている。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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