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作間敏宏「接着 / 交換」ギャラリーハム(名古屋)で2025年11月15日–12月20日

Gallery HAM(名古屋) 2025年11月15日〜 12月20日

作間敏宏

 作間敏宏さんは1957年、宮城県生まれ。Gallery HAMでの個展は2021年、2022年、2024年に次いで、今回が4回目である。

 発生生物学者の岡田節人さん(1927-2017年)の、生き物は接着と交換によって生き延びているという考えをベースに、1990年代から、「治癒」「colony」「接着/交換」という3つのシリーズを継続的に展開している。

 生命が生きるとは、生命と生命が接着 / 交換、すなわち新陳代謝をすることであるという思想が全体を貫く。生命は単独では生きられない。つながり合って、瞬間、瞬間に現象が生起し、変化しながら生を連続させる。生命のコミュニティーがあって世代を未来にリレーさせる。

 人間も、つながること、依存し合うことで傷を修復し、弱さや過ちを乗り越えて生きている。作間さんの作品では、生命の接触/交換という主題が、人間と人間の関係性、血族、社会という問題領域へも展開している。

 作間さんの多くのインスタレーションでは、生命の隠喩となる単位が集積し、個として存在しながら群生するように展示される。

「接着 / 交換」2025年

 今回、展示空間で目を引くのは、床面に並べられ、電球で照らされた縦横11×11個、計121個のレンガ形の蜜蝋である。その一つ一つに人の名前(アルファベット)が刻印されている。

 ミツバチが、六角形の小部屋を連続させたハニカム構造の巣を作るために分泌するのが、蜜蝋である。

 個々の蜜蝋の「レンガ」は、その有機的な存在感と相まって、生命活動の象徴のようにも見えるし、家のような場所をイメージすることもできるし、逆にその形態や展示形式から、生命が尽きた後の墓碑のようにも見える。つまり多義的である。

 蜜蝋のレンガ群の上方に渡されている白い紐のようなものは、ガーゼの包帯である。一方の壁から対面の壁まで、ギャラリー空間を横断しているが、よく見ると、回転するようにゆっくり動いていることが分かる。

 近くには、ガーゼと灰を入れた透明のアクリルボックスが積まれ、タワーのようになっている。

 他にも、六角形の蜜蝋をミツバチの巣のように積み上げた立体や、ミツバチのイメージを使った平面作品がある。

 今回の展示では、ミツバチと人間の生命、社会の連続性が分け隔てなくフォーカスされ、そこに傷や死が介在しているというのが、全体の印象だ。

 言い換えると、ここには、ミツバチと人間の、生物学的、社会的成り立ちのアナロジーがある。

 つまり、ミツバチは、花の蜜と花粉を摂取し、自らの分泌物によって巣を作って、それが生命のつながり、種の保存と連続性につながっている。人間もまた、食事を取って、さまざまな素材を積み上げて家を造り、家族というユニットを構成して社会を形成し、子孫を連続させる。

 興味深いのは、幾何科学的な構成である。秩序立って並ぶ蜜蝋の「レンガ」や、六角形を連続させて蜂の巣を再現した立体、さらに言えば、ガーゼと灰のタワーも幾何学的である。

 生命の生々しさ、余韻、その儚さ、弱さのみならず、そうした生命の働きの中に、つながりとしての構造、連続と反復を見てとることが、その幾何学性、抽象性の原理において、作間さんの作品を普遍的な強さを付与している。

 つまり、作間さんの作品には、ミツバチ、そしてすべての生き物と人間を同じ生物学的地平とつながりで見ているような、世界へのまなざし、ビジョンを感じる。

 人間は生物として特別なのではなく、ミツバチと変わらぬ生命である。ミツバチと人間のアナロジーによって、生命そのものの未知なるもの、見えない関係性、世界について想像力を掻き立てる、今回の展示の醍醐味がある。

 人間とミツバチの生命の働きを区別なく問うことは、世界のスケールの概念を問い直し、マクロとミクロ、人間から見えない生命までの階層を昇り降りするような神秘的な、詩的な問いかけが潜んでいるのだ。

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