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名古屋芸大が舞台芸術課程を新設 人材輩出できるか

 2020年1月4日の中日新聞によると、名古屋芸術大(愛知県北名古屋市)が演劇などの舞台芸術制作の専門課程の設置を2021年度の開設に向け準備している。

 従来の美術、音楽と並ぶ実質的な学部に相当する課程として力をいれる方向。定員は50人ほどで、①大道具などの舞台美術、②音響・照明などの空間演出、③劇場の企画や広報などの舞台プロデュースの3コースを設ける。指導者には、歌舞伎や、故蜷川幸雄さんの舞台などを手がけてきた舞台美術家、金井勇一郎さん、三重を拠点とする劇団・第七劇場を主宰する演出家、鳴海康平さんらが就任する予定。

 同紙によると、演劇・舞台芸術の実技を学べる大学は、日大、多摩美など私立大学に10前後ある。名古屋芸大には、既に芸術学部芸術学科の音楽領域の中にミュージカル俳優やダンサー、声優など舞台の演者を養成する過程があるという。
舞台芸術関係の高等専門教育は、他の先進諸国と比べ、遅れている印象があり、東海地方にこうした過程ができることは喜ばしい。名古屋芸大がどの程度の目標を想定しているかは不明。少子化の中で今後、一層経営が厳しさを増すであろう地方の芸術系大学の生き残り戦略の1つとして、多角化を目指すという意味合いもあるのだろう。

 教育においての成否は、指導者次第である。マームとジプシー主宰の演出家、藤田貴大さんらがいた頃の桜美林大には、平田オリザさんがいて、その存在感が大きかった。また、大学ではないが、平田さんが主宰する青年団の出身、所属など関係する人材には、前田司郎さん、松井周さん、柴幸男さん、多田淳之介さん、三浦基さん、岩井秀人さんらがいて、いかに平田さんの求心力が強いかが分かる。また、木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一さんや、2019年の舞台「KAAT・KUNIO共同製作 KUNIO15『グリークス』」などが高い評価を得ている杉原邦生さんらが在学した頃の京都造形芸術大には、かつて転形劇場を主宰し、沈黙劇で知られる故太田省吾さんがいた。

 国際交流基金webサイトの木ノ下さんへのインタビューによると、当時の京都造形芸術大には、太田省吾さん以外にも、舞踏家の岩下徹さん、ダンサー・振付家の山田せつ子さん、演出家・劇作家の宮沢章夫さん、現代美術家の高嶺格さんなどが指導者にいたというから、これはすごいわけである。

 芸術全般に言えることだろうが、人材養成は指導者によるところが大きい。しかも、筆者も大学時代に演劇をかじっていたせいで、少し分かるのだが、集団制作である演劇は、現場で人材が育つ性格も強いので、現場的なプログラムを組めるかどうかも鍵のような気がする。

 そこで心配になるのが、演劇ということで言えば、舞台公演の現場のほとんどが東京であることだろう。制作の現場、教育の場としては、地方の落ち着いた環境はいいのだろうが、公演としての現場の力という点では心許ない。

 優れた指導者から舞台に関わる技術や、思想、姿勢を受け取るのみならず、多くの優れた舞台に触れること、その現場で経験を積むことが必要である。つまり、名古屋芸大の演劇制作課程が発展するには、東海地方の演劇公演そのものの活況も欠かせない。

 愛知県芸術劇場や、三重県文化会館、穂の国とよはし芸術劇場PLAT、可児市文化創造センターなどの真摯で先進的な取り組みはあるにしても、東京の優れた舞台公演は、なかなか名古屋に来ない。演劇人口が伸び悩んでいること、劇場の相次ぐ閉鎖や、若手の小劇場劇団を巡る状況などを考えると、不安がないとは言えない。地域の演劇文化の厚みをどうつくっていくかは未解決の難問である。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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