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宮本宗展 リングワンダリング〜山の光〜 masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)で2025年5月24日-6月8日

masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市) 2025年5月24日~6月8日

宮本宗

 宮本宗さんは1985年、三重県桑名市生まれ。2012年、愛知県立芸術大学大学院彫刻領域修了。以前は、主に鉄の構造物を制作し、2021年の「都市の方舟/Arc of The City 」では、緻密に再現した12基の鉄塔を旧・名古屋ボストン美術館展示室の各所に配した。

 同年のmasayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)でのグループ展「BEYOND THE END 」では、自身のイチジク農園を撮影した映像に立体を組み合わせたインスタレーションを見せている。

 今回の展示では、山(森)の中のさまざまな生命現象を作品の主題に取り入れている。具体的に言えば、生態系によって生み出される生き物の不思議な「造形活動」が作品のモチーフになっている。

 宮本さんは幼い頃、三重県の山間部で過ごし、山の中で生命の息遣いとその痕跡に出合う経験が日常的にあった。

 時を経て、2018年から、生活と制作を両立させるため、愛知県尾張旭市でイチジク農園を運営。子供時代の記憶と、農業を通じて自然と関わる経験が作品に注ぎ込まれている。

 つまり、イチジクの栽培を通じて、山の記憶が召喚され、人間が自然を客体化するという関係が相対化された。

 人間が自然に向ける眼差し、すなわち自然を対象化するという行為には、どうしても支配関係がつきまとう。

 そこから離れ、今回の展示では、宮本さんが山の中で採取した「自然の造形物」と、宮本さんが作った「美術作品としての造形物」が分け隔てなく展示されている。

リングワンダリング〜山の光〜

 作家と名乗る人間が作る造形物はなぜ「美術」とカテゴライズされ、植物や昆虫、鳥や哺乳類など、人間ではない生命による造形物は、観察される対象に過ぎないのか。

 宮本さんは、自然の造形物に対して、今回の個展のステイトメントで「山の意志」という言葉を使っている。自然の中で植物や生き物によって作られる形態への畏敬がそこにはある。

 山という存在、ひいては、私たち人間を含む世界が、目に見えない生態系によって支えられているという考えは、あらゆる存在が単体では存在せず、森羅万象のすべてがつながっているという仏教の縁起の法、重々帝網を想起させるものである。

 そして、最近の出版界では、人間より下等とされる生き物、例えば、昆虫にも「心=意識、記憶、思考」があるという研究が示されている。

 宮本さんが取り上げる哺乳類や鳥、昆虫も世界を認識する感覚を持っているのだ。私たち高慢な人間には「見えない」だけでーー。そんな思いを感じる。

 宮本さんの作品を見て、思い出したのは、筆者も1997年にドイツ・カッセルのドクメンタ10で作品を見たオーストリアのアーティスト、ロイス・ワインバーガーの「見えない自然」の思想である。

 見えない自然、すなわち自然が持つ力そのものである「造形物」を宮本さんは採取し、それに倣って自身が造形した美術作品とともに、等価に展示している。

 私は、最初、どこまでが宮本さんの作品で、どれが自然の造形物か分からなかった。

 作品を見ていると、かつて、人々が山や森に抱いた畏敬の念に近い思いが感じられるとともに、何よりも美しく、同時にユーモアをみてとることができる。

 例えば、「百舌鳥モズ早贄はやにえ」を題材にした作品では、野鳥のモズが捕まえた獲物を枝に突き刺して保存する習性を参照し、枝に刺したカエルやムカデを鉄、木などで作っている。

 あるいは、主に昆虫に寄生し、キノコを発生させる菌類「冬虫夏草とうちゅうかそう」をモチーフにした作品や、キセルガイを木を素材に制作した作品も見応えがあった。

 また、宮本さんが山の中から採取してきた本物の「百舌鳥の早贄」のカエルなども、筆者にとっては興味深かった。

 今後、これらの作品をどのように深く展開させていくのか、楽しみである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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