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林繭子展 日動画廊名古屋で2025年9月12-22日に開催

  • 2025年9月17日
  • 2025年9月17日
  • 美術

日動画廊名古屋 2025年9月12〜22日

林繭子

 林繭子さんは1969年、三重県生まれ。1994年、愛知県立芸術大学大学院を修了。名古屋を拠点に絵画を制作している。

 1990年代から2010年ごろまでは名古屋の伽藍洞ギャラリー、その後はガレリア フィナルテなどで作品を発表してきた。個展は東京などでも開き、また多くのグループ展にも参加している。2020年のフィナルテでの個展レビューも参照。

 筆者は林さんの作品を90年代から見ている。表向きは随分と変化しているが、今回の個展を見て、あるところに回帰し、新たな展開を志向しているようにも感じた。

 老荘思想に影響され、筆で描かず、自我の錯覚を離れようと意識していた1990年代中頃、その後、筆やペインティングナイフを使用し、大きなストロークを縦横に展開するなど、色彩の強さが前面に出た時期、2003年頃からの、雑誌などから引用した女性やファッション、モード、シカの角、ヒツジなどの具象的イメージが現れた時期、09年ごろからの、《Mary》という女性の名前を主題に据え、画面に小さな女性像が加わり、内なる自分の葛藤が表現された作品群などである。

2025年 個展

 今回の個展で注目されたのは、支持体のサイズが小さくなるとともに、キャンバスでなく、木製パネルや板に描いていることだ。

 丁寧に下地をつくり、油絵具で一気に描く。研磨した下地は平滑で、その上を筆勢豊かに絵具が走っているのが分かる。具体的な形象はない。あるのは色彩が入り混じるような、無垢なる瞬間の重なりである。

 初期の頃のように絵具の流れが際立つ。林さんが好むのは、色彩の流れと絵具のツヤ、厚みそのもの、いわば物質性。ここでは、そうした純粋で高密度な、多様な色彩、物質のバリエーションが現れている。

 構図を考えているわけではない。何が生まれるかも分からない。できるだけ思考を離れ、脳内にプログラミングされた、世界を再現することから距離を取ろうとしていて、これも初期の頃に試していたことに通じる。

 サイズダウンしたのも、画面が大きいと、自分が納得できるスピード感とスリリングなストローク、絵具の密度と物質感が出ないからだ。この小さいサイズが、思考、脳の働きから離れるのにちょうどいいのだろう。

 今思うと、作品の内容が変化しても、鮮やかな色彩のインパクトと流れるような筆触、絵具の物質感は一貫している。

 小さいサイズに描くこともそうだが、今回は、矩形でなく、三角形の支持体に描いている作品が多くあるのも特徴である。

 そして、これらの小さい矩形、あるいは三角形の複数を出合わせるようにして、1つの作品にしているものが多くある。

 その意味では、林さんの作品は、変化し続ける、色彩と筆勢、絵具の物資に託された瞬間と瞬間の出会いである。

 世界をつかみ、捉えようとするのではなく、むしろ、不意に自分にやってくるもの、現れては消え、変化する自分という現象の断片の美しさをすくいとっている。

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