PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA(名古屋) 2025年11月8〜23日
林田真季
林田真季さんは1984年生まれ。兵庫県出身。2007年、関西学院大学総合政策学部卒業。2023年、英国・ロンドン芸術大学ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーションMA写真修了。
主な受賞歴に、「アルル国際写真フェスティバル LUMA Rencontres Dummy Book Award」ファイナリスト(2023年)、「シンガポール国際写真フェスティバル Dummy Book Award」グランプリ(2020年)など。

主な展覧会に2024年の第17回shiseido art Egg展 Water & Mountains(東京・資生堂ギャラリー)など。
一般企業に勤めた後、アーティストの道に進んでいる。資生堂ギャラリーでは、英国沿岸部のごみ埋立地だった場所を撮影し、モノクロ写真に手彩色した作品などを展示した。環境問題などのリサーチベースの作品である。

写真技法への問題意識も強く、今回の個展ではそれが前面に出ている。2024年からのプロジェクトで、スギの植林を通じたエコロジーの問題を背景に、生背景写真のイメージと物質性、存在論から社会性へに接続するアプローチである。
《Agent C.》
「潜像の森」は、切り株を撮影した写真の9点の連作。フィルムと印画紙を、スギ由来の現像液で現像し、プリントの定着には塩水を用いている。植物由来の現像液は時間的な制約があり、階調がコントロールされない上に、プリントに差異とシミが生じている。

非物質的でありながら、写真の素材、技法によって、環境問題を問い直すとともに、膨大な情報と電力を消費するAI画像へのアンチテーゼにもなっている。写真と現実世界の時間性、物質性、エネルギー、生態系がテーマ化されている。
「Misson20250807」は、同一条件、同一時間の露光、現像による連作で、スギ抽出の現像液が使われていることから、微妙な差異を生んでいる。写真作品におけるエディションを問い直す意味合いが込められている。


そのほか、植物由来の現像液を抽出するために使ったスギを撮影した、未定着のフォトグラム作品「変わりゆくドローイング」もある。作者は、あえてこの写真作品を「ドローイング」と名付けている。
いわば、太陽光と植物が描いた「絵」である。写真の起源と自然に遡りつつ、その批評性によって未来を志向する作品である。定着していないため、時間とともに変化し、消失する。会場では、暗幕を上げて、作品を見る。
