もうひとつのフランス近代美術史
三重県立美術館で2026年1月17日〜3月22日、「ライシテからみるフランス美術 信仰の光と理性の光」が開催される。
国家が宗教から自律し、人々に信仰の自由や精神的平等を保障する制度や思想を指す「ライシテ」の視点から、フランス近代美術の新しい楽しみ方を提案する展覧会。
ライシテは、異なる宗教を信じる/信じない人々の共生のための理念から、政治権力と宗教の厳格な分離に至るまで、複数の顔を持つ。


18世紀末に起こったフランス革命は、人間の理性に光を見い出し、王政とカトリック教会による支配を否定して、新たな秩序を築こうとした。
その後、カトリック国としての伝統を取り戻そうとする人々と、革命の理想を引き継いでライシテを推進しようとする人々の間で対立が起こる。
美術も、両者の争いの影響を受けながら、王侯貴族や教会の権力から離れ、それ自体で「聖性」を獲得していった。
本展では、フランス革命期から20世紀半ばまでのフランスの油彩画、版画、彫刻等約200点を紹介し、国内コレクションの珠玉の作品群に新しい光を当てる。

ジャン=フランソワ・ミレー《無原罪の聖母》1858年 山梨県立美術館

モーリス・ドニ《聖母月》1907年 ヤマザキマザック美術館
開催概要
会 期:2026年1月17日[土]-3月22日[日]
開館時間:午前9時30分-午後5時(入場は午後4時30分まで)
休 館 日:月曜日(ただし2月23日[月・祝]は開館)、2月24日[火]
*会期中、一部の作品の展示替を行う。
主 催:三重県立美術館、中日新聞社
特別協力:町田市立国際版画美術館
企画協力:下野新聞社
学術協力:伊達聖伸(東京大学大学院総合文化研究科教授)
観 覧 料:一般1,000円(800)円、学生800(600)円、高校生以下無料
*()内は前売および20名以上の団体割引料金
*この料金で、「美術館のコレクション」、柳原義達記念館も見ることができる。
*生徒、学生の方は生徒手帳、学生証等を提示。
*障害者手帳等(アプリ含む)のある方および付き添いの方1名は観覧無料。
*教育活動の一環で県内学校(幼・小・中・高・特別支援)および相当施設が来館する場合、引率者も観覧無料(要申請)。
*毎月第3日曜の家庭の日(1月18日、2月15日、3月15日)は団体割引料金で観覧できる。
*主な前売券販売所:チケットぴあ、ファミリーマート、セブン-イレブンほか。

リュック=オリヴィエ・メルソン《エジプト逃避途上の休息》1880年 島根県立美術館
みどころ& おすすめのポイント
「新しい」展覧会
本展では、ライシテ研究の第一人者である伊達聖伸氏を学術協力者に迎え、図録に論考を収録。「フランス近代美術×宗教」「美術×政治」の先行研究はあるものの、「美術×宗教×政治」の展覧会は過去に類を見ないものである。
宗教と政治にまたがる新たな視点「ライシテ」から、もうひとつのフランス近代美術史のストーリーを描く本展では、国内の美術館が所蔵する作品も、いつもと違った顔を見せてくれるはずである。
有名作家の作品から、知る人ぞ知る作家の作品まで大集合
ウジェーヌ・ドラクロワ、ジャン=フランソワ・ミレー、オーギュスト・ロダン、クロード・モネ、パブロ・ピカソ、マルク・シャガールら、有名作家の作品が一堂に会するまたとない機会となる。一方で、エティエンヌ・ディネ、ギュスターヴ・アンリ・ジョソ、ジュール・グランジュアンなど、知る人ぞ知る作家の作品も紹介。多様な作風は目を飽きさせないこと請け合いである。
尽きない話題
フランス革命期から第二次世界大戦後までをカバーする本展は、フランス革命をはじめ、ナポレオン、ドレフュス事件、第一次世界大戦等、美術にとどまらず、文学、映画、演劇、漫画等のさまざまな作品の題材となった人物や出来事にも幅広く言及。美術以外の分野に関心がある方にもおすすめしたい展覧会である。
今だから考えたい、「ともに生きること」
三重県立美術館では2024年度から「美術館がつなぐ共生社会推進事業」(文化庁Innovate MUSEUM事業)を実施し、誰もが自分らしく生きられる共生社会の推進をめざしている。ライシテは宗教共存の理念であるが、本展は、今を生きる私たちに「異なる属性や信条をもつ人たちが、ともに生きるためにはどうしたらよいか?」という問いに思いを巡らせるきっかけを与えてくれる。

ラウル・デュフィ《ピエール・ジェスマール氏の肖像》1932-1938年頃 宇都宮美術館
関連プログラム
記念講演会「ライシテからみるフランス美術――展覧会をもっと楽しむために」
本展の学術協力者である伊達聖伸氏が、展覧会の見どころや、「ライシテ」とは何かについて話す。
日時:2月7日[土]午後2時から(90分程度/午後1時30分開場)
会場:三重県立美術館講堂
講師:伊達聖伸氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)
定員:140名(当日先着順)、参加無料
担当学芸員によるスライド・トーク
本展と関わりの深いテーマについて、スクリーンに画像を投影しながら話す。
日時:2月15日[日]、3月14日[土]午後2時から(40分程度/午後1時30分開場)
会場:三重県立美術館講堂
定員:140名(当日先着順)、参加無料
担当学芸員によるギャラリー・トーク
展示室内で数点の作品を鑑賞するツアー。展示室に入るためチケット(観覧券)が必要。
日時:1月24日[土]、3月1日[日]午前11時から(30分程度)
会場:三重県立美術館企画展示室