Gallery 芽楽(名古屋) 2025年9月20日〜10月5日
栗原光
栗原光さんは1987年、長崎県生まれ。2010年、名古屋造形大学造形学部美術学科洋画コース卒業。愛知県在住。同県瀬戸市のタネリスタジオで制作している。
2012年の愛知県清須市の第7回はるひ絵画トリエンナーレで優秀賞。2014年、清須市はるひ美術館で個展「アーティストシリーズVol.72 栗原光展」を開いた。2023年のギャラリー芽楽での初個展のレビューも参照。

元々は、水の流動感をストロークとして描いた抽象的な絵画を制作し、それが絵画の形式への意識の高まりとともに現在の作風へと至った。
絵画空間の構成、色彩(レイヤー)の重なり、ストロークの動勢と方向性を意識しながら、制作プロセスを重視した作品を制作している。
2023年の個展と比べても着実に歩みを進め、見ていてとても気持ちの良い絵画を描いている。
ー織ー 2025年個展

現在、画面を4つのエリアに分割し、その過程で色彩のレイヤーを重ねるという一定のプロセスで描いている。
絵画の意味内容でなく、どう描くかを決めて、そこから絵画の可能性を探究するという方法を取っている。
4つの領域から成る絵画といっても実にさまざまである。分割される面積、色彩の対比、境界線の処理、ストローク、レイヤーの重なり、絵具の濃淡、にじみ、痕跡などによって、無限の可能性が開かれる。シンプルでありながら、深く、その過程で時間をかけていることが分かる。

作品は、即興的に描かれたものではない。紙へのドローイングの段階で小さく描き、色彩の重なりや構成、ストロークなどを試し、そこで手応えがあれば、サイズを大きくしていく。
だから、同じような、分割した領域の現れ方、色彩の組み合わせ、ストロークである、大小さまざまな相似形の作品がある。
今回は、それが分かるように展示しているわけではないが、部分的にそのプロセスを確認はできる。

つまり、4つの領域の分割、例えば緑、青、赤、水色の、同じストロークの、同じかすれ、同じ色彩の重なり、同じ制作プロセスの、サイズだけ異なる複数の絵画が存在している。
ここからも、栗原さんが、絵画空間を形式に還元しながら、絵画のクオリティについて考えていることが分かる。
ドローイングを忠実に再現しながら拡大し、少しずつ大きな絵画にすることで、絵画の生成過程を要素還元しながら実験する方法は、大学時代に学んだ登山博文さんからの影響も見て取れる。

4つに分割された絵画というルールを決めて、絵画を探究する姿勢は独特のものである。栗原さんは特にストロークのさまざまな現れや、絵具の違い、身体性などにも鋭敏であるように思える。
実際に、絵具素材を変化させて、4つの領域を塗り分けるような作品も制作している。基本は、綿布に油絵具だが、墨や朱、合成樹脂塗料を使った作品もある。

また、基本的に薄塗りであるため、作品の強さを出す狙いで、木枠を厚くして、支持体が前にせり出してくるような工夫もしている。
今回は、新たな作品として、4つの分割領域の作品だけでなく、その1つを選んで画面全体にした、オールオーヴァーな作品も出品している。
色彩を変化させて、そのバリエーションを6組の絵画として展示した。背後の色彩が見えるように、斜めのストロークが左上から右下へと軽快に流れている。

まだ、試行段階のようだが、今後、画面を大きくしていったときにどうなるか、楽しみである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)