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『掘る女 縄文人の落とし物』名演小劇場(名古屋)で8月19日公開 

©︎2022 ぴけプロダクション

縄文遺跡の発掘調査に携わる女性たちを3年間追ったドキュメンタリー

 縄文遺跡の発掘調査に携わる女性たちを3年間にわたって記録したドキュメンタリー「掘る女 縄文人の落とし物」が2022年8月19日から、名古屋市東区東桜の名演小劇場で公開される。

 2021年7月に「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されるなど、再評価が進む縄文文化。

 1万6000年〜3000年前に作られた奇妙なデザインの土器や、どこかかわいげのある土偶の謎は、多くの現代人をひき付けてやまない。

 監督は、『≒草間彌生~わたし大好き~』『氷の花火 山口小夜子』の松本貴子。

 ナレーションは「銀河鉄道999」のメーテル役で知られる池田昌子が担当する。劇中に登場するスソアキコのイラストを使ったアニメーションもキュートだ。

 男仕事と思われがちな遺跡発掘で、汗だくになりながらスコップを地面にはわせる女性たち。ロマンを感じながら楽しそうに仕事をしている姿が最高である。

 ここには見栄や余計な欲がない。発掘が集団作業だからだろう。

 近所のおじさん、おばさんの作業員の人たちと一緒に掘り進んでいく。みんなが、地域や歴史、大昔の人々とのつながりを感じながら、いきいきとしている。

 何が発掘できるか。そんな期待、感動とともに毎日を生きている。こんなふうに仕事をしたいと思わせる映画である。ぜひ、進路に悩む若い人に見てほしい。 

土臭くてラヴリーな発掘ドキュメンタリー。夢中になれることが、人生をこんなに豊かにする。

 ある晴れた朝。作業員たちが向かったのは広大な遺跡発掘現場。そこで発掘されたものは「落し物」として警察に届けられるらしい。そんな古代人の落し物を探し続ける女性たちがいた。

 長野県の山中。遺跡発掘現の調査員として働く大竹幸恵さんは30年間、縄文人が天然ガラスの黒曜石を掘っていた星糞峠の発掘現場に通い続けてきた。

 小学6年生のときに土器を拾って以来、考古学一筋の人生。今では10人の作業員を率い、毎日、泥まみれになる。だが、今年いっぱいで発掘は終了。定年を迎える。

 一方、岩手県洋野町にある北玉川遺跡は発掘が始まったばかり。調査員の八木勝枝さんが作業員を指揮している。作業員の女子率が高く、笑いが絶えない。

 八木さんは土偶が大好きな土偶女子。これまで発掘してきた数々の土偶を愛おしいそうに紹介する。

 かつて文化財レスキューをしていた八木さんは、東日本大震災の被災地で思い出の品を必死で探し続ける人たちの姿を見て、「遺跡はその土地の思い出の品。地元の人たちが生きていくために欠かせないものだ」と言う。

 神奈川県の稲荷木遺跡は、調査員8人、作業員200人という巨大な現場。

 次々と土器や土偶が出てくる。作業員として働く池田由美子さんは、珍しい釣手土器を発掘中だ。

 20年以上のベテランである。ポストに入っていた求人チラシで応募。働いてすぐに珍しい土器を発見して発掘作業にはまった。

 発掘は考古学に縁がなかった女性たちの人生を変えることもある。

 のちに国宝になった合掌土偶を発掘した作業員、山内良子さんと林崎恵子さんは、当時の思い出を熱く語る。

 栃木県の中根八幡遺跡では大学生たちが発掘を行なっていた。その中の一人が国学院大学の大学院生、伊沢加奈子さん。中高生の頃は、両親が手を焼くほど反抗的だったが、考古学が彼女を変えた。

 考古学に夢中になって大学生活を送った後、地元の歴史民族資料館に就職して社会人としての一歩を踏み出す。働くようになって文化財を守る必要性を考えるようになった、と伊沢さんは言う。

 その頃、星糞峠の発掘が終了。現場は埋められ、そこに建立されたミュージアムに発掘現場から削り取った地層が展示された。

 北玉川遺跡も稲荷木遺跡も埋められて、新しい道路が作られる。考古学は掘っては埋めての繰り返し。そして新しい現場で、汗水流している「掘る女」の姿があった。

監督 松本貴子

 「第6回ぴあフィルムフェスティバル」入選をきっかけに映像の世界へ。

 日本初のファッションレギュラー番組「ファッション通信」の立ち上げに参加。ディレクターを務める。

 1995年に草間彌生と出会い、唯一、密着取材ができる監督として、NHKスペシャル「水玉の女王 草間彌生の全力疾走」(2012年)、「≒草間彌生 わたし大好き」(2008年)など多数の作品を制作する。

 世界的なファッションモデル、山口小夜子のドキュメンタリー「氷の花火 山口小夜子」(2015年公開)も発表。

主な出演者

大竹幸恵(黒耀石体験ミュージアム学芸員・長和町教育委員会文化財担当課長)

 1959年生まれ。茨城県出身。明治大学文学部史学科考古学専攻卒業、同大学院博士課程前期修了。

 小学校6年生のとき、クラスの研究発表会のために、近所で拾った土器をレポートにまとめたのが最初の考古学体験。

 その後、考古学研究者のマドンナが登場する映画「男はつらいよ 葛飾立志編」と、教育実習生に勧められて読んだ藤森栄一著「土器と石器のはなし」に感動して考古学の道へ。

 明治大学で藤森栄一さんの愛弟子、戸沢充則教授に学び、先輩の大竹憲昭さんと結婚。夫の勤務先の長野県に移住した。

 1990年から、憧れの黒曜石の一大産地、長野県長和町の教育委員会に勤務。師と共に国史跡「星糞峠黒曜石原産地遺跡」の継続的な発掘(学術調査)を牽引してきた。

八木勝枝(公益財団法人岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センター主任文化財専門員)

 1974年生まれ。福岡県出身。明治大学文学部史学地理学科考古専攻卒、同大学院修了。

 高校時代、父親の海外勤務で米国テネシー州に住んでいたとき、トウモロコシ畑で石器を拾い、大昔と現代が一緒にある不思議さを感じる。

 「私達が立っている地面の下にはどんな歴史があるのか」と興味を持ち、考古学の道へ。学生時代の発掘調査で遮光器土偶の上半身を掘り当て、感涙。以来、土偶愛を持ち続け、土偶出土数が最多の岩手県に就職する。

伊沢加奈子(栃木県壬生町立歴史民俗資料館学芸員)

 1995年生まれ。栃木県出身。小学生の頃、親に恐竜博物館に連れて行ってもらい、恐竜や歴史など昔のことに興味を持つ。

 化石の発掘に参加したとき、サメの歯を見つけて大喜び。高校時代に進路に悩んだ際、子供の頃を思い出し、発掘と歴史の勉強がしたいと国学院大学栃木短期大学に入学。その後、国学院大学文学部史学科考古専攻に編入、同大学院修士課程修了。

山内良子・林崎恵子(元作業員)

 1989年に青森県八戸市の風張1遺跡で、新米の作業員として働いていたとき、合掌土偶を発掘。山内さんは身体を、林崎さんは左足を発見している。

池田由美子(作業員)

 神奈川県秦野市の稲荷木遺跡で働くベテラン作業員。出土数が少ない「釣手土器」を発掘した。以前にも、原東遺跡(神奈川県津久井郡)で「釣手土器」を掘り出し、発掘に夢中になった。

元沢秀子(作業員)

 青森県八戸市の一王寺遺跡で働くベテラン作業員。冬は、室内作業にも従事している。

相野美香(作業員)

ウニ漁師に嫁いだ北玉川遺跡作業員。

相野喜貴(美香の夫で、ウニ漁師)

小林青樹(奈良大教授)

山田昌久(東京都立大学教授)

藤森英二(長野県北相木村考古博物館学芸員)

今井哲哉(元新潟県津南町教育委員会文化財専門員)

横山寛剛(一王寺遺跡調査員) 

菊池安時(稲荷木遺跡作業員)

天野賢一・阿部友寿・後藤喜八郎・村澤正弘・矢口孝悦(稲荷木遺跡調査員) 

伊沢久美子(伊沢加奈子の母親)

大竹憲昭(大竹幸恵の夫。長野県埋蔵文化財センター勤務)

主なスタッフ

ナレーション:池田昌子

 「銀河鉄道999」のメーテル役やオードリー・ヘプバーンの吹き替えなどで知られる声優界のレジェンド。

 ラジオから流れてきた池田さんの声に「時空を軽々と飛び越える」と直感した監督が熱心にオファーして実現した。

 スタジオ収録が終わった池田さんの感想は「スケールの大きなお話ね、好きよ(微笑)」。

音楽:川口義之

 「大地と繋がるような低く太い音、でもなんだか楽しげ」という監督のリクエストに応え、作曲したのは「栗コーダーカルテット」と「渋さ知らズ」という2つの顔を持つ川口義之。

 演奏と編曲は、「栗コーダーカルテット」の3人が担当した。

 エンディングのみ、日本が世界に誇るカテゴリー不可な音楽集団「渋さ知らズ」のメンバーから、リーダー不破大輔を筆頭に泉邦宏、磯部潤、鬼頭哲、斎藤良一、高橋保行、中根信博、山口コーイチが演奏に合流して花を添えている。

2022年/日本/111分/カラー/DCP
監督:松本貴子/ナレーション:池田昌子/撮影:門脇妙子/音楽:川口義之(栗コーダーカルテット)/音楽プロデュース:井田栄司/編集:前嶌健治/タイトル文字・イラストレーション:スソアキコ/アニメーション:在家真希子、岸本萌/考古学監修:堤隆/オンライン編集:石原史香/音響効果・整音:髙木創
出演:大竹幸恵、八木勝枝、伊沢加奈子ほか
製作・配給:ぴけプロダクション/配給協力・宣伝:プレイタイム ©︎2022 ぴけプロダクション

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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