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荒川修作さん、宮崎駿さんの交友関係 『Distraction Series』の第16弾

  • 2021年2月9日
  • 2021年2月9日
  • 美術

『Distraction Series』第16号より 宮崎駿さんと荒川修作さん、三鷹天命反転住宅イン メモリー オブ ヘレン・ケラーにて、撮影:本間桃世, 2005年

 荒川修作+マドリン・ギンズ東京事務所Reversible Destiny Foundationが、荒川+ギンズが創造したさまざまな哲学、プロジェクトを共有しようと配信を始めた隔週のニューズレター『Distraction Series』の第16弾で、 アニメーション監督の宮崎駿さんと荒川修作さんの交友関係を紹介している。

宮崎駿、荒川修作

 荒川+ギンズ事務所は、「アーカイブ資料から読み解くArakawa/Ginsの交友関係」(仮題)として、シリーズ化を検討中。宮崎駿さんはその初回となる。

 荒川さんと宮崎さんの関わりは深く、筆者も中日新聞の美術記者だった1999年、 岐阜県美術館で「荒川修作 マドリン・ギンズ展 死なないために 養老天命反転地」展が開催された折、 岐阜であった荒川さんと宮崎さんの対談を新聞文化欄に詳述している。

 本稿では、当時の対談のエッセンスも紹介する。

 荒川+ギンズ事務所によると、宮崎さんと荒川さんは、宮崎さんが養老天命反転地(岐阜県養老町)を訪れたことをきっかけに、交友。公の場での対談はもちろん、プライベートでも互いの事務所を訪ねては対話を繰り返した。

 現在、偶然ながら、東京都三鷹市には、スタジオジブリが宮崎さんの思いを結実させ、2001年に完成させた三鷹の森ジブリ美術館と、その4年後に、荒川さんがギンズさんとともに長年の構想を形にした「三鷹天命反転住宅In Memory of Helen Keller」がある。

 同じ地域にあることから、観光や、教育機関の見学旅行などで2つの建築物をセットで訪れる人も多い。

 2人の建築に共通するのは、外から見たときからワクワクし、中に入れば誰もが歓声をあげて笑顔になり、元気になることだという。シンプルながら最も難しいことである。

 自然を畏れ、子どもの頃の感覚を持ち続ける。人間として生まれてきた以上は地球に恩返しをする-。

 2人の交友関係を通して、私たちが受け取ることは今こそ大切になっていると、 荒川+ギンズ事務所はいう。

 筆者が取材した荒川さんと宮崎さんの対談は、1999年、岐阜県美術館であった「荒川修作 マドリン・ギンズ展 死なないために 養老天命反転地」展を機に開かれた。

 当時は、養老天命反転地がオープンして3年半ほどが経過していた。

 養老天命反転地の完成後、荒川さんは、グッゲンハイム美術館・ソーホーでの「宿命反転」展(1997年)を終え、1998年には、東京・ICC(NTTインターコミュニケーション・センター)の展示で、養老天命反転地を発展させた都市国家《宿命反転都市》(センソリアム・シティ=知覚都市)を東京臨海副都心に作り上げるプランを提案していた。

 荒川さんと宮崎さんの対談では、主にこの《反転都市》を中心に話が進んだ。

 荒川さんは1960、70年代の「意味のメカニズム」に続き、身体的思考、都市的構想へと向かったが、「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」などで独自の文明観を示してきた宮崎さんは、この《反転都市》に共感を表明していた。

  《反転都市》 では、身体や知覚に揺さぶりをかけ、その変容から認識論的な反転を体験する養老天命反転地の考えをさらに押し進める。身体の行為を主体に、新しい現象や感覚が出現する新しい「生活空間」を創出させるのが狙いである。

  《反転都市》 では、起伏が続き、住宅はスロープで曲線的につながって深い森の中のように重層化している。住民は多くの場を共有し、豊かなコミュニティーを形成。各住戸は台所を中央に、玄関が四方に開け、どこからでも出入りできる。やがて、常識や道徳、倫理、死生観が変わる-。

 荒川さんは対談で、繰り返し、「生命や感覚が個人の身体から出て、外部に存在していく」ということを強調していた。

 人間の感覚が「降り立つ」ような新しい共同性が起き、自我の区別がなくなることで、街全部が1つになる。

 宮崎さんも、近代文明や都市の行き詰まりについて触れ、自我や意識などを見直すという考えに共感。その上で、荒川さんの《反転都市》について、「都市を否定した縄文時代への回帰」だと分析した。  

 2人は、現代への危機意識や、近代的な思想や都市への懐疑、現代のペシミズムや芸術のニヒリズムの超克という視点でつながっていた。

  『Distraction Series』の第16弾』 の全文は、荒川修作+マドリン・ギンズ東京事務所のWEBサイトで。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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>伝えること、文化芸術とメディアについて

伝えること、文化芸術とメディアについて

1980年代から、名古屋、東京、関西で文化芸術を見てきた。新聞文化面、専門雑誌、「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、自ら新聞文化欄を編集、美術、映画、演劇などの記事を書いてきた。2000年代に入ると芸術批評誌を立ち上げ、2019年にはWEBメディアを始めた。文化芸術とメディアの関係、その歴史的展開、メディアリテラシー、課題と可能性、レビューや伝わる文章の書き方、WEBメディアの意義、構築方法について、若い世代に伝えたいと考えています。

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