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国際芸術祭「あいち2022」片岡真実芸術監督が就任あいさつを発表

「あいちトリエンナーレ」から名称変更した「国際芸術祭『あいち2022』」の芸術監督、片岡真実さんが2020年11月18日、公式サイトに就任あいさつを発表した。

 片岡さんは、あいさつの中で、現代美術との出会い、1980年代の名古屋での現代芸術との接点などに触れた後、1990年代以降の国境を越えたトランスナショナルな美術の状況と、世界の動向がリアルに投影される現代美術の意味に言及した。

 現代の世界が映すのは、多様性、包摂性、コロナや気候変動問題、未来に向けたサステナブルな社会の在り方などである。

 片岡さんは、精神の糧、思考の糧としての現代美術の力を強調。「国際芸術祭『あいち2022』」が目指す6つのポイントを示した。

 ①ポジティブなエネルギー、②地域の再発見、③コロナ時代の国際展のモデル、④領域横断、⑤ラーニング・プログラム、⑥県⺠のための、県⺠による国際芸術祭—である。

 その上で、学んだことを生かし、分断の溝を埋め、未来を共に考えるためのプラットフォームとして、愛知から世界へ発信する、としている。

 あいさつの全文は、次の通り。

国際芸術祭「あいち 2022」 芸術監督就任あいさつ

 この度、「国際芸術祭「あいち 2022」」の芸術監督を拝命致しました片岡真実です。
 私は愛知県名古屋市に生まれ、豊田市、一宮市、刈谷市、名古屋市で 20 代前半までを過ごしました。その間、現代美術と出会ったのは 80 年代の米国ですが、80 年代後半から 90 年代にかけての名古屋では、多くのギャラリーや ICANagoya でのアルテ・ポーヴェラのアーティストなどの展覧会、あるいは名古屋市美術館でジョン・ケージが来名しての「4 分 33 秒」を体験するなど、現代美術に関わる今日の私の礎が愛知県で築かれたことを、改めて回想しています。
 以降 30 年ほど、「現代美術とは何か?」を考えてきました。80 年代までは、欧米、なかでもニューヨークがその中心と考えられてきましたが、90 年代以降、冷戦構造崩壊を契機に、世界は多文化主義の時代、グローバル化の時代を迎え、美術の世界でも、1989 年にパリで開催された「大地の魔術師展」に象徴されるように、非欧米圏のさまざまな文化的、社会的、政治的な文脈から生みだされる芸術表現に等しく光を当てるべきであるという考え方に、時間をかけて推移してきました。いまや「現代美術、コンテンポラリー・アート」は世界中にネットワークが拡がる共通言語です。美術の歴史もワールドアートヒストリーと言われ、それぞれの地域で独自に発展してきた美術のあり方を比較しながら、国境を越えたトランスナショナルな美術を考えるようになっています。
 現代美術は常に世界の大きな動向を反映したものであり、私自身、「現代美術は世界の縮図である」と考えています。今年、世界的に蔓延した新型コロナウイルスと、それによって表面化したさまざまな社会問題も、現代美術の表現に自ずと投影されていくと思っています。そのなかで、現在、世界中の美術館や国際展が重視しているのは、多様な文化、⼈種、ジェンダー、⺠族などを視野に⼊れたダイバーシティ、それらを包摂するインクルーシブという考え方です。同時に、コロナ以前から世界の喫緊の課題とされている気候変動問題、未来に向けたサステナブルな社会の在り方なども、ますます重要になってくるでしょう。
 一方で、世界が健康危機に直面するなか、芸術はわれわれに必要不可欠なのか、あるいは不要不急なのか、という問いにも直面することになりました。芸術の力、クリエイティビティやイマジネーションは、先の見えない不確実な時代にこそ、力を発揮するものです。作品の圧倒的な美しさ、アーティストが制作に注ぎ続けるエネルギー、発想を転換させる斬新なアイディアなどは、落ち込んだ心にポジティブな高揚感をもたらすものです。芸術は精神の糧、そして、知らない事を知ることで思考の糧ともなる、と考えています。
こうした背景を踏まえて、2022 年夏に開幕する「国際芸術祭『あいち 2022』」の“あるべき姿”を、次の 6 つの観点から考えてみたいと思っています。

1.まず最初に、「国際芸術祭」は、アートの祭典、お祭りですから、国際的な芸術の動向を反映しながらも、困難な時代を生き抜くために、楽しく、ポジティブなエネルギーを生むものにしたいと思っています。

2.一方、地域の芸術祭は、地域に根差している方が圧倒的に面白いと思っています。愛知ならではの場所、歴史、文化には是非とも注目したいです。愛知は、戦国時代に日本の統一に尽力した三英傑を輩出した歴史的な地です。また、海、山、川など豊かな自然環境が育んだ伝統工芸、なかでも陶芸や繊維産業が栄えた「ものづくり」の街でもあります。こうした魅力を、現代アートの視点から再発見していきたいと思います。

3.「国際芸術祭『あいち 2022』」に問われている大きな課題は、⼈々の移動が制限されているコロナ時代の国際展制作において、どのような新しいモデルを提示できるのか、ということです。この問いに対しても、クリエイティブに取り組んで行きたいと考えています。

4.「あいちトリエンナーレ」の特徴のひとつは、現代美術とパフォーミングアーツが融合した領域横断型の国際芸術祭であるということです。「国際芸術祭『あいち 2022』」でも、この枠組みを踏襲しながら、新しい領域にも積極的に取り組みたいと思っています。

5.ラーニング・プログラムを重視したい。すでに述べたとおり、世界の多様な価値観がインターネットの発達などによって可視化され、ときにそれらが衝突する、複雑で難しい時代になっていることを、現代の表現は反映しています。世界を分断ではなく、融合や相互理解へと繋げていくためには、知らないことを共に学んでいく、という姿勢が不可欠です。自分と異なる考え方に敬意を払い、知らなかったことを知る喜びを感じることが重要です。美術館や国際展では、作品を見て、五感で感じ、解説を読むだけでなく、さらに深い理解に繋げていくために、ラーニング・プログラムを重視しています。私自身も、「世界は知らないことで溢れている」と常々思っていますので、みなさんと共にまた学んでいきたいと思います。

6.最後に、「国際芸術祭「あいち 2022」」では、県⺠のための、県⺠による国際芸術祭を目指したい、と考えています。昨年の来場者アンケートによると、56%が愛知県内から、44%が海外を含む県外からの観客です。県⺠のみなさんに「世界」を届ける芸術祭にしたいと同時に、県⺠のみなさんも国内各地、世界各地から観客を迎える“ホスト”として、「国際芸術祭『あいち 2022』」をどうしたら世界に誇る魅力的な芸術祭にできるのか、一緒に考えていただきたいと思っています。

 ご挨拶の最後に、「あいちトリエンナーレ 2019」にも少しだけ触れておきたいと思います。「国際芸術祭」というものは、美術館と異なり、毎回、ディレクター、芸術監督が交代するのが一般的です。世界の多様な考え方を投影するものですから、開催回ごとに芸術監督それぞれの考え方によって芸術祭が作られます。したがって、「国際芸術祭『あいち 2022』」は、これまでのトリエンナーレとは異なる、全く自律したものであることをご理解いただきたい。
 通常、前回の芸術祭についての評価を問われることはありません。
そのうえで、敢えて申し上げるとすれば、「あいちトリエンナーレ 2019」に関する議論は、この時点ではほぼ出尽くしたと考えています。いまやるべきことは、そこで学んだことを次に活かすことだけです。そして、未だ何らかの分断が残っているとすれば、その溝を埋めていく方法を、考える時期ではないでしょうか。
 いま世界では結束、ソリダリティが強く求められています。パンデミックからの回復のための力、レジリエンスが必要です。「国際芸術祭『あいち 2022』」は、⼈類が求める未来を共に考えるための、意義のあるプラットフォームとして、愛知から世界へ力強く発信されるものでなければなりません。

 以上を、芸術監督就任のご挨拶とさせていただきます。

2020 年 11 月 17 日 国際芸術祭「あいち 2022」芸術監督 片岡真実

国際芸術祭「あいち2022」の公式サイトより
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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