年末回顧2020―美術・写真

 2020年の年末を迎え、新聞各紙の年末回顧記事から今年注目された展覧会、美術の話題を回顧する。

 日経新聞の2020年12月7日朝刊文化面では窪田直子編集委員、毎日新聞の12月10日夕刊文化面では高橋咲子記者、読売新聞の12月10日朝刊文化面では井上晋治記者、12月22日の朝日新聞夕刊文化面では大西若人編集委員の回顧記事が掲載されている。
 また、毎日新聞12月3日夕刊では写真批評家の竹内万里子さんが、写真の回顧記事を寄稿した。

新型コロナウイルスの影響

 いずれの新聞も、新型コロナウイルスの感染拡大防止で、全国のミュージアムが休館、展覧会の延期や中止、スケジュールの組み替え、事前予約制の導入などに至った状況に言及。インターネットによる鑑賞企画の提供についても紹介した。

 毎日新聞、読売新聞は、私立のワタリウム美術館、山種美術館、大原美術館がクラウドファンディングで運営資金を募ったことにも触れた。

コレクションを見直す展覧会

 多くの新聞が共通して触れたのが、横浜美術館で「トライアローグ」展(2020年11月14日〜2021年2月28日)。同館と愛知県美術館、富山県美術館が組み、それぞれの優れたコレクションを合わせることで20世紀の西洋美術史を振り返る試みである。

 愛知県美術館には2021年 4月23日~ 6月27日、富山県美術館には2021年 11月20日~ 2022年1月16日の予定で巡回する。

美術館を再考する試み

 毎日新聞は、美術館のサスティナビリティを考えた和歌山県立近代美術館の「美術館を展示する」(12月1〜20日)を挙げた。読売新聞は、作品を飾らず展示室そのものを展示する東京・世田谷美術館の「作品のない展示室」(7月4日〜8月27日)を紹介した。

独自の視点の企画

 多くの新聞、識者が注目した展覧会として、近現代日本の文化史に幅広く関わった精神科医、式場隆三郎さん(1898〜1965年)の活動を取り上げた「式場隆三郎 脳室反射鏡」(練馬区立美術館/10月11日〜12月6日など)があった。

評価のあった個展

 鴻池朋子「ちゅうがえり」(アーティゾン美術館/6月23日〜10月25日)、「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」(東京都現代美術館/6月9日〜9月27日)などを各紙が評価した。

 また、Chim↑Pomの個展(東京・ANOMALY/6月27日〜7月22日)も複数の新聞が取り上げた。緊急事態宣言中の東京の街の中に青写真の感光液を塗った看板を掲げ、時間や天気の移り変わり、社会の気配を写し撮った。

国際展は?

 コロナ禍の影響が及んだ国際展の動向にも、多くの新聞が言及。札幌国際芸術祭が中止を決めた一方、感染対策を徹底して開催にこぎつけたヨコハマトリエンナーレ(7月17日〜10月11日)も注目された。

写真

 複数の新聞が取り上げたのが、「森山大道の東京ongoing」(東京都写真美術館/6月2日〜9月22日)。

 毎日新聞で、写真批評家の竹内万里子さんは、「アサヒカメラ」の7月号をもっての休刊、銀座ニコンサロンの10月での閉館に触れた。

 写真集や著書で言及したのは以下の通り。
 国内写真界の女性蔑視的な眼差しをえぐり、各紙書評欄でも評価された長島有里枝著「『僕ら』の『女の子写真』から わたしたちのガーリーフォトへ」(大福書林)、絵を描いていただけで「治安維持法」に反するとして逮捕された1941年の生活図画事件の当事者を取材した高橋健太郎「A RED HAT」(赤々舎)、日韓人交流の歴史をたどり、土門拳賞を受けた藤本巧「寡黙な空間」(工房草土舎)、「写真の誕生」に刺激を受けながら新たな絵画を模索した画家たちが訪れ制作した場所を巡って撮影した鈴木理策「知覚の感光板」(赤々舎)。

 展覧会では、「森山大道の東京ongoing」のほかに、「杉本博司 瑠璃の浄土」(京都市京セラ美術館/5月26日〜10月4日)、「生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市」(東京都写真美術館/9月29日〜11月23日)、「生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代」(東京オペラシティ・アートギャラリー/10月10日〜12月20日)に注目した。

 このほか、竹内さんは、木村伊兵衛写真賞を受けた片山真理さん、横田大輔さんにも触れた。

閉館・閉鎖

 各紙が触れたのは以下の通り。
 LIXILギャラリー(東京)が2020年9月に幕を閉じた。東京・原美術館が2021年1月に閉館することが発表された。

開館・移転・リニューアルなど

 弘前れんが倉庫美術館(青森県弘前市)、国立工芸館(金沢市、東京国立近代美術館工芸館)、アーティゾン美術館(東京都、旧ブリヂストン美術館)、「京都市京セラ美術館」(京都市美術館)など、美術館の開館、移転、リニューアルなどの話題も各紙に取り上げられた。

訃報

美術関係を中心とした2020年の訃報「偲ぶ 2020年亡くなられた美術関係者等」は、こちら。

 ほかに、写真家の奈良原一高さん、倉田精二さん、鬼海弘雄さん、熊切圭介さん、画家の岡本信治郎さん、日本画の鈴木竹柏さん、建築家の竹山実さんの訃報が掲載された。

各紙識者のベスト展覧会・その他

日経新聞

 このほか、窪田さんが挙げたのが「京都の美術 250年の夢」(京都市京セラ美術館)だった。

毎日新聞

高階秀爾さん(大原美術館館長)の3選

①「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(国立西洋美術館)
②「ピーター・ドイグ展」(東京国立近代美術館)
③「もうひとつの江戸絵画 大津絵」(東京ステーションギャラリー)

その他

 宮島達男「クロニクル 1995-2020」(千葉市美術館)、内藤礼「うつしあう創造」(金沢21世紀美術館)、青木野枝「霧と鉄と山と」(東京・府中市美術館)を取り上げた。

読売新聞

建畠晢さん(多摩美大学長、埼玉県立近代美術館館長)のベスト4

・「盛圭太『Bug report』」(東京都現代美術館「ドローイングの可能性」の展示)
・「ダムタイプ 新作パフォーマンス『2020』上映会」(ロームシアター京都)
・「鴻池朋子 ちゅうがえり」(アーティゾン美術館) 
・「京都の美術250年の夢」(京都京セラ美術館)

椹木野衣さん(美術批評家、多摩美大教授)のベスト4

・「竹内公太『Body is not Antibody』」(SNOW Contemporary)
・「式場隆三郎 脳室反射鏡」(新潟市美術館など)
・「エキソニモ UN-DEAD-LINK インターネットアートへの再接続」(東京都写真美術館)
・「横尾忠則『WITH CORONA』」(作家公式サイトのツイッター)

蔦谷典子さん(島根県立美術館主席学芸員)

・「大原美術館開館90周年記念特別展」(大原美術館)
・「白馬のゆくえ 小林萬吾と日本洋画50年」(香川県立ミュージアムなど)
・「生誕110年記念 異才 辻晉堂の陶彫」(米子市美術館など)=「異才 辻晉堂の陶彫『陶芸であらざる』の造形から 京都の美術館「えき」で11月23日まで」を参照
・「没後20年 真鍋博2020」(愛媛県美術館)

 ほかに、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(国立西洋美術館など)、「ハマスホイとデンマーク絵画」(東京都美術館など)、「画家が見たこども展」(三菱一号館美術館)、「森田恒友展」(埼玉県立近代美術館)などにも注目した。

朝日新聞

高階秀爾(美術史家・美術評論家)

①「きもの KIMONO」(東京国立博物館)
②「ART in LIFE,LIFE and BEAUTY」(東京・サントリー美術館)
③「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」(東京・アーティゾン美術館)

村田真(美術ジャーナリスト)

①「式場隆三郎:脳室反射鏡」(広島市現代美術館)
②「天覧美術」(東京・エイトエイコ)
③「作品のない展示室」(東京・世田谷美術館)

山下裕二(美術史家)

①「日本美術の裏の裏」(サントリー美術館)
②「生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代」(東京オペラシティアートギャラリー)
③「如鳩と沼田居展」(栃木・足利市立美術館)

 編集委員の大西さんは、これまでに挙げられたもののほかに、上田薫展(神奈川・横須賀美術館など)、「河鍋暁斎の底力」(東京ステーションギャラリー)、森村泰昌さんの「エゴオブスクラ東京2020―さまよえるニッポンの私」(東京・原美術館)や大阪・モリムラ@ミュージアムの取り組み、豊田市美術館の岡﨑乾二郎さんと久門剛史さんの個展などを挙げた。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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