ピピロッティ・リスト展 京都国立近代美術館で 6 月 20日まで会期延長

  • 2021年4月15日
  • 2021年6月12日
  • 美術

「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island 
-あなたの眼はわたしの島-」

ピピロッティ・リスト
© Pipilotti Rist , All images courtesy the artist, Hauser & Wirth and Luhring Augustine
《色とりどりの幽霊 》 (ヴィデオ・スチル) 2020 年(新作)
シングルチャンネル・ヴィデオ・インスタレーション/
瓶のラベルに投影、煙草の箱、瓶

 京都国立近代美術館で 2021 年 4 月 6 日〜6 月 20日、スイスを拠点に国際的に活躍する現代アーティスト、ピピロッティ・リストの初期作から最新作までを紹介する展覧会「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island-あなたの眼はわたしの島-」が開催されている。 会期が6月20日まで延びた。

 五感を刺激する心地よい音楽、世界をユーモアたっぷりに切り取った鮮やかな映像によるヴィデオ・インスタレーションは、国を越えて幅広い世代の観客を魅了してきた。

 身体、女性、自然、エコロジーをテーマとした作品約 40 点で構成。身体や女性としてのアイデンティティをテーマとする初期の短編ヴィデオや、ヴェニス・ビエンナーレに出品された代表作、自然と人間との共生を謳う大規模なプロジェクション、映像と家具が溶け合ったリビングルーム、リサイクル品を活用した屋外作品など、約30年間の活動の全貌を紹介する。

水戸芸術館に巡回

 水戸芸術館現代美術ギャラリーに、2021年8月7日~ 10月17日の会期で巡回する予定。

©Pipilotti Rist , All images courtesy the artist, Hauser & Wirth and Luhring Augustine
《永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に 》 (ヴィデオ・スチル)
1997年 2チャンネル・ヴィデオ・インスタレーション( 4 分 9 秒、 8 分 25 秒)

チケットなど

◆会期
2021 年 4月6日(火)~ 6月13日(日)
◆開館時間
午前 9 時 30 分~午後 5 時(金・土曜日は午後 8 時まで)
*入館は閉館の 30 分前まで
*新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開館時間変更の場合もある
◆休館日
月曜日[ただし、5 月 3 日(月・祝)は開館]
◆観覧料
一般:1,200 円(1,000 円)/大学生:500 円(400 円)
※( )内は前売りと 20 人以上の団体および夜間割引(金・土曜日の午後 5 時以降)

展示室内では靴を脱いで鑑賞する。靴下と靴袋を持参のうえ、来場する。

ピピロッティ・リスト

1.本名エリザベート・シャルロット・リスト。「ピピロッティ」は児童文学の『長くつ下のピッピ』に由来

 スイスのザンクト・ガレン州グラブス生まれ。

 ピピロッティ・リストという作家名は本名ではない。幼少期から自分の名前が好きではなかったリストは、大学時代に本名シャルロットに由来した愛称「ロッティ」と『長くつ下のピッピ』の主人公の名前「ピッピ」を組み合わせて新たな名前と人格を生み出した。

2.ヴィデオ・インスタレーションの先駆者

 ピピロッティ・リストは1980 年代にウィーンの応用芸術学校と、バーゼルのデザイン学校を卒業。

 1986年に自身を撮影したカラーの短編ヴィデオ作品《わたしはそんなに欲しがりの女の子じゃない》をスイスのゾロトゥルン映画祭に出品したのをきっかけに、ヴィデオ・アーティストとしての道を進んだ。

 転機となったのが、1997年のヴェネツィア・ビエンナーレで発表され、若手作家優秀賞(プレミオ 2000)を受賞した作品《永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に(Ever Is Over All)》と《わたしの海をすすって(Sip My Ocean)》。

 2 つのイメージが重なりあうように投影され、新しい映像インスタレーションの手法を提示したことで注目された。

 1980年代以降のミュージック・ヴィデオの手法を発展させつつ、映像インスタレーション作品として、ジェンダーや身体、自然との共生など、現代社会に通底するテーマを扱うことで、美術における映像のあり方に新境地を切り拓いた。

 2000年代以降は、ニューヨークのタイムズ・スクエアのマルチビジョンでの夜間投影、ポンピドー・センター前広場への屋外投影、金沢21世紀美術館のトイレ内での作品設置など、ビデオ・アートの領域を越えて、映像展示の可能性を広げた。

3.いま、世界でもっとも活躍する女性アーティストのひとり

 2008年ニューヨーク近代美術館、2014年ニュー・ミュージアム、2014年チューリヒ美術館、2016年シドニーのオーストラリア現代美術館、2018年ルイジアナ近代美術館など、世界各国の主要美術館で大規模な個展が開催されている。

 日本では、資生堂ギャラリー(2002年)、原美術館(2007年)、丸亀市猪熊弦一郎美術館(2008年)で個展を開催。

 瀬戸内芸術祭(豊島)や PARASOPHIA 京都国際現代芸術祭 2015でのサイトスペシフィックな作品展示も話題を呼んだ。

ピピロッティ・リスト
©Pipilotti Rist , All images courtesy the artist, Hauser & Wirth and Luhring Augustine
《4階から穏やかさへ向かって》 2016 年
3チャンネル・ヴィデオ・インスタレーション/ベッド、枕
(13 分 23 秒、 8 分 11 秒、 8 分 11 秒)オーストラリア現代美術館での展示風景
Photo: Anna Kucera

あなたの眼はわたしの島

 「Your Eye Is My Island-あなたの眼はわたしの島-」というサブタイトルは、ピピロッティ・リスト自身が付けたが、明快なメッセージや意味が込められているわけではない。

 活動初期から一貫して人間の眼を「Blood-driven Camera=血の通ったカメラ」と呼んできたピピロッティ・リストにとって、「眼」は重要なテーマであり続けている。

 それに対して、「Island=島」は、島国である日本を指す。「島」という単語には、日本好きでもある作家の日本への特別な思いが込められている。

 英語で読むと、《Eye》 《Island》と、「アイ」が反復されるが、リストはこうした韻を踏んだフレーズを好んで用いる。

 顔にあるふたつの円形(眼)は、まるで海に浮かぶ島のようだ、という比喩としても受け取ることができる。

主な出品作品

1.《永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に》 Ever Is Over All

 1990 年代末以降、フェミニズムの記念碑的作品として数多くの展覧会に出品されてきた代表作。

 水色のワンピースと赤い靴を身につけた女性が、街を歩きながらシャグマユリ(クニフォフィア)の花の形をしたハンマーで、楽しそうに車の窓ガラスを次々と叩き割っていく様子がスローモーションで映し出され、もう一方の壁には、赤い花のさまざま
なクローズアップ映像がオーバーラップして映し出される。

 自動車に象徴される男性的社会を花の棒で破壊する女性の狂気を、明るく開放的に描き出しているとも解釈できる。

 警官姿の女性が通りすがりに微笑みながら敬礼するさまは、まるでこの女性の行為を容認するかのよう。その演出にはリスト特
有のユーモアが表れている。

2.《4 階から穏やかさへ向かって》4th Floor To Mildness

 地球は、表面の70%が水分で構成されていることから「水の惑星」とも称される。この惑星を「Earth /地球」ではなく、「Water /水球」と呼ぶべきと語っているリストにとって、「水」は創作上の重要なモチーフである。

 この作品は、作家にとって馴染み深いチューリッヒ近郊のライン川で撮影された。

 川の中にカメラを潜らせると、「まるでモネの《睡蓮》を水の下側から見たような景色」が広がっていた。

 葉の裏についた小さな気泡、さまざまな生物、葉の虫食い穴か
ら漏れてくる光、泥、藻など、今まで見過ごしていた水の中の光景がクローズアップでとらえられている。

 水中で撮影された断片的な映像が、天井から水平に吊るされた雲のような形のスクリーンに投影され、観客はランダムに置かれたベッドに横たわって、下から上を見上げるように鑑賞する。

 Soap&Skinが手掛けた重厚な音楽が流れる中、ベッドに横たわって映像を見ていると、水中にいるような錯覚に陥る。

3.《もうひとつの身体》Another Body
  《不安はいつか消えて安らぐ》Worry Will Vanish Relief
  《マーシー・ガーデン・ルトゥー・ルトゥー/慈しみの庭へ帰る》 Mercy Garden Retour Retour

 空や光、水、泥、動植物や虫、色鮮やかな花々と禁断の果実、そしてそれらに触れ、浸り、重なり合う人間――。

 人間とその環境という共通した主題を扱う3つの映像作品によって、身体と自然界を取りまくさまざまなイメージを混淆させ、明確な筋道のない夢の連なりのような映像を組み立てた。

 《もうひとつの身体》で夢想される楽園追放が起こらなかった世界、《不安はいつか消えて安らぐ》で描かれる皮膚を介して浸透し合う身体の内側と外側、そして、《マーシー・ガーデン・ルトゥー・ルトゥー/慈しみの庭へ帰る》が紡ぐ人間と環境にまつわる記憶の断片――。

 穏やかで心地よいイメージに満ちた作品群において、眼は世界を愛撫する主体となり、光を感受する視細胞となり、またある時は子ブタと少女を見上げる周縁的な存在に憑依し、さらには空中遊泳する女性を見つめる誰かの白昼夢の中へと潜り込む。

 こうしたパースペクティブの移動が、表象によって構築された人間だけの世界を複数種が織りなすつながりの世界へと作り変える。

4.《ヒップライト(またはおしりの悟り)》 Hiplights (or Enlighted Hips)

 物干しのように吊るされたさまざまな白い下着(パンツ)がモチーフとなった屋外作品。

 普段は、自分自身か親しい人の目にしか触れず、慎ましやかに人体の重心を包んでいる下着が空中で軽やかにはためくさまは、重さからの解放を象徴しているようにも見える。

 下着はヒップ(臀部)のなかに収まったさまざまな器官の運動
やそれらによってもたらされる極めてプライベートな官能を連想させ、また、誰もがそこを通り、真暗な胎内から光溢れる明るい世界へと生まれ出てきたことを思い起こさせる。

 吊るされた下着を見るとき、私たちはその中に詰まった重力にも似たものを思い描いては羞恥を覚え、いつか超自然的なものの介入によって解き放たれたいと願うのではないか。

 不浄と浄化、公と私、無価値と価値など、日常的に慣れ親しんだものが見せる世界の多面性に心を開くことを促している。

美術館におけるリビングルーム

 近年では、美術館の展示室でリビングルームのように身体を解放しながら作品を体験できる大規模なインスタレーション空間を演出している。

 リストは、鑑賞者が自らの意思で作品とどのような関係を結ぶのかに関心があるという。

 リストの作品を介して、人々が出会い、行き交うシェアハウスのような場所が出現。今回の展覧会でも、自宅でくつろぐように靴を脱いで作品を楽しめる。

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伝えること、文化芸術とメディアについて

1980年代から、名古屋、東京、関西で文化芸術を見てきた。新聞文化面、専門雑誌、「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、自ら新聞文化欄を編集、美術、映画、演劇などの記事を書いてきた。2000年代に入ると芸術批評誌を立ち上げ、2019年にはWEBメディアを始めた。文化芸術とメディアの関係、その歴史的展開、メディアリテラシー、課題と可能性、レビューや伝わる文章の書き方、WEBメディアの意義、構築方法について、若い世代に伝えたいと考えています。

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