芸術家・今井次郎 名古屋シネマテークで11月27-12日10日公開

画像は公式サイトより

60年の生涯を生ききった天才のドキュメンタリー

 2012年に悪性リンパ腫で亡くなるまで、幅広いジャンルで自由な創作を続けたミュージシャン、パフォーマー、造形作家の今井次郎さんに迫ったドキュメンタリー映画「芸術家・今井次郎」が2021年11月27日〜12月10日、名古屋・今池の名古屋シネマテークで公開される。

 今井次郎さんは、1952年、東京生まれ。1970年代後半~80年代初頭、伝説のパンク・タンゴ・バンド「PUNGO」などで活動した後、85年、パフォーマンス演劇の「時々自動」に参加した。

 その後、「JIROX」の名前で美術作品も制作。特定のジャンルに縛られない表現を展開した。

 映画は、2018 年、若いミュージシャンが今井次郎さんの音楽を「今こそ必要」として開いたトリビュートライブの映像を軸に展開。関係者の証言とさまざまな映像を加え、類い稀な存在感に肉薄している。

 出演は、 今井次郎、 時々自動、 佐藤幸雄とわたしたち、 ユニマルカ、 石川浩司、 オジュデュイイルフェボウ with モモンガ・コンプレックス、 テニスコーツ、 とんぷくユニットほか。

今井次郎

 筆者も、小劇場ブームが熱を帯びた1980年代の東京で演劇に夢中になっていた1人である。

 当時、時々自動が話題の劇団だったのは知っていたが、見ることはなく、今井さんのことも全く知らなかった。

 演劇やパフォーマンスでも、美術、あるいは音楽でも、一般には知られていなくとも、自由に嘘のない世界を表現している優れたアーティストはいる。今井さんもそんな1人として、命尽きるまで、人間の不条理と哀感、生きる喜び、ユーモアを独特の存在感で発信し続けた。

 本当の意味で自由に生きたアーティストだったのだろう。自由とは、自分のみを拠り所として、他のものに拠り所を求めていないということである。

 他人の意見や権力に頼っていない。あえて完成度を遠ざけている。メジャーになることが目標ではない。メジャーを狙って名声や金を欲すれば、自分でなくなる。

今井次郎

 数々の楽曲やパフォーマンス、ノートの端や病院の薬の袋、献立表などの紙片に走り書きされた譜面、ごみ同然の素材を用いたオブジェ、絵画…。作品も今井さん自身もシュールである。

 売れ筋とは思えないどこかぎこちない表現は、マーケットや効率、つまりは、金儲けの資本主義から最も遠いところにあるからこそ、心にすーっと入り込んでくる。

 悪性リンパ腫で入院したとき、毎日の病院食を使って表現した「ミールアート」のユーモラスな人や動物のなんと切なく美しいことか。

 今井次郎さんがとても愛された人だということが、映画から伝わってくる。筆者は、この映画を見て、人間にとって、創ることは何かという根本的な問いについて考えた。

 今井さんは、意味や生産性でなく、楽しいことを求めている。そして、与えられるのではなく、与えることを。

 人間にとって、与えることが幸せになる、ほとんど唯一といっていい道筋である。

今井次郎=JIROX

 1952年、東京生まれ。
 1970年代後半~80年代初頭、伝説のパンク・タンゴ・バンド「PUNGO」等の活動で、東京のオルタナティヴ・ミュージック・シーンの一翼を担う。
 1985年、この年結成されたパフォーマンス演劇の草分け的存在「時々自動」に 参加。以降、最期まで出演、作曲を続け、曲数は100曲を超える。
 1990年代半ばから「JIROX」の名前で美術活動を開始。日常品や、ごみ同然の素材を用いたオブジェや絵画、自作曲を駆使したパフォーマンス「JIROX DOLLS SHOW」は、多くの熱烈な支持を集めた。
 2012年11月 悪性リンパ腫により逝去。

スタッフ

監督/青野真悟

 1963年生まれ、愛媛県出身。横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)演出コース 8 期。フリーランスのテレビディレクター。1985年から、劇団『時々自動』に参加。1999年まで出演や映像を担当した。 今井次郎とは舞台での共演から始まり、結婚式の司会進行を任されるまで、青春のほとんど全てを共に過ごした。

監督/大久保英樹

 1962 年生まれ、福岡県出身。横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)演出コース 7 期。卒業後、同期の劇作家・鄭義信さんの作・演出公演に出演するなどした後、1988年から、劇団『時々自動』に参加。2003 年まで出演や映像を担当した。 今井次郎とは同じ舞台に立ち、映像と音楽で共作した作品も多数制作した。1990年代から、フリーランスディレクターとして、主に地上波の情報番組等を演出している。

監督・撮影・編集: 青野真悟 大久保英樹
企画: 桐山真二郎 プロデューサー: 橋本佳子
ライブ撮影: 山崎裕 高野大樹 ライブ録音: 清水克彦
レコーディングエンジニア: 内田直之 EED : 織山臨太郎 MA:富永憲一
宣伝:細谷タカヒロ 宣伝デザイン:織山朋
制作・配給: ドキュメンタリージャパン
2021/94 分/ 日本

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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