園子温監督「エッシャー通りの赤いポスト」名古屋シネマテークで1月28日まで

エッシャー通りの赤いポスト

 2019年に心筋梗塞で生死の境をさまよった鬼才・園子温監督が、映画をつくることで原点回帰を果たした作品『エッシャー通りの赤いポスト』が2022年1月8〜28日、名古屋・今池の名古屋シネマテークで公開されている。

 自主映画からキャリアをスタートさせ、強烈な個性を色濃く反映させた傑作、怪作を生み出してきた園子温監督が、インディーズ映画に帰ってきたといわれるエネルギッシュな作品。ばかばかしいほどに面白く、そして、グッとくる。

これぞこれぞこれぞ園子温!!
誰しもが自分と言う物語の映画の主役を演じ中で
自分以外はエキストラ
園さんの愛と毒牙の眼差しは
人間は紛れも無く全員がエキストラで
紛れも無く全員が主役なんだと言う
叱咤激励であり人類讃歌
ありがとう園子温!!
斎藤工(俳優/映画監督)

 公式サイトに掲載された著名人の絶賛の数々は、お世辞やお付き合いではない。

 1月15日に、園子温監督による再度の舞台挨拶がある。

 東海地方では、刈谷日劇でも公開予定である。

 2019年、病気のため、ニコラス・ケイジ主演で撮影に入る予定だった『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』が製作延期となった園監督に、劇作家・演出家・シナリオライターの松枝佳紀さんが主催する「アクターズ・ヴィジョン」から、ワークショップ講師の誘いが舞い込んだ。

 「園子温監督による役者のための実践的ワークショップ」への応募は697人。オーディションなどを経て、51人が選抜された。

 ベテラン俳優の藤田朋子さんがワークショップに自ら応募し、出演していたことを映画を見た後、公式サイトから知った。

 ほとんどが無名で、演技や映画出演の経験がない役者も多くいる中、藤田さんが51人を支えるまとめ役になったという。

 大がかりなロケーションを敢行した愛知県豊橋市の商店街でのクライマックスが圧巻である。ワークショップの全参加者が集結。通りを歩く一般の人々も加わって展開する感動的な場面である。

ストーリー

 鬼才のカリスマ映画監督・小林正(山岡竜弘)は、新作『仮面』に、演技経験の有無を問わず広く出演者を募集する。

 浴衣姿の劇団員、小林監督の親衛隊である「小林監督心中クラブ」の女性たち、俳優志望の夫を亡くした若き未亡人・切子(黒河内りく)、殺気立った訳ありの女・安子(藤丸千)など、個性的な面々がオーディション会場に押し寄せてくる。

 自分をアピールしようと必死の参加者たちは、 小林監督らを前に演じ、そして語り始める…。

 助監督のジョー(小西貴大)らは、脚本作りが難航する小林監督のことが心配だ。そんなとき、小林の元恋人、方子(モーガン茉愛羅)が現れ、脚本の続きを書いてくれるという。

 エグゼクティブプロデューサー(渡辺哲)からは、無理な横槍を入れられ…。

レビュー

 『エッシャー通りの赤いポスト』は、映画に出演するため、さまざまな思いを胸にオーディション会場に集う人たちの群像劇である。

 だから、園監督の現実のワークショップを受講する応募者たちと相似形のシチュエーションが映画の中で反復される。この入れ子構造が最大の特長である。

 どこまでも深い映画愛と人間讃歌にあふれている。

 奇妙な人、クセのある人、ダメな人、目立たない人、前に踏み出す勇気のない人。映画の中のそんな人たちを笑いながらも、ひたむきさ、ほとばしるような存在感に心揺さぶられる。

 そして、彼らは、私たち自身でもある。

 B級感満載だが、筆者は、人間がむきだしに現れているこういう映画が好きである。

 もちろん、映画は虚構である。

 しかし、脚本がそれぞれの俳優たちの個性に合わせて当て書きされていることもあって、役者たちの人生という現実と、園監督の脚本の中の虚構との区別が分からなくなる感覚がある。

 ドラマの入れ子構造に加えて、俳優たちのほとんどが無名であることから、よけいに、有名俳優の演技にはない生身の個性や俗物さがリアルに見えてくる。

 演技とは何か、映画とは何か。生きる意味とは何か。そんな問いかけもあるのだろう。

 この世は舞台、人はみな役者。すべての人にとって、人生の主人公は「私」である。同時に、すべての「私」は世界の中心にいるのではなく、エキストラにすぎない。

 すべての人は、個性があると同時に普通でしかなく、出演者であると同時に黒衣、裏方なのである。

 この映画のさまざまなシーンから、すべての出演者、エキストラへの園監督の優しいまなざしがにじんでいる。

 小劇場風の絶叫、狂気的なシーン、さりげないコミカルな笑いの場面や、つなぎの短いカット。至るところから、名もなき出演者たちの感性が伝わってくる。

 有名俳優、目立つ役、脇役、ちょい役、商店街に偶然いただけのエキストラや子ども。その区別が、ここではほとんど意味をなさない。

 なんでもない人たちの懸命な姿から、人間っていいなあと、希望と勇気がわいてくる作品である。

監督・脚本・編集・音楽:園子温

 1961年生まれ、愛知県出身。86年、ぴあフィルムフェスティバルに入選した『俺は園子温だ!』で監督デビュー。翌年、『男の花道』で同フェスティバルグランプリを受賞。98年、『部屋』にてサンダンス映画祭特別賞受賞。

 1999年には、愛知芸術文化センターのオリジナル映像作品として『うつしみ』が制作されている。

 『自殺サークル』(02)、『紀子の食卓』(05)、『愛のむきだし』(08)、『冷たい熱帯魚』(10)、『ヒミズ』(11)、『希望の国』(12)、『地獄でなぜ悪い』(13)など多くの作品で国内外問わず、さまざまな映画賞を受賞している。

 2021年、ハリウッドデビュー作となった『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』が公開され、WOWOWオリジナルドラマ「キン肉マン THE LOST LEGEND」には「園子温」本人役で出演。監督・脚本・編集・音楽を手がけた本作は、第49回モントリオール・シネヌーヴォー映画祭観客賞受賞。ベルリン批評家週間でも上映されている。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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